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09 奪われた○○

 俺に付加されるはずだったチート能力は、あの鷲ガラスにスマホを壊されたせいでほとんど失われてしまい、おそらく今の自分はレベル1の無能者だ。

 そんな復活を果たすなどという、高度な能力を持たされているとはちょっと思えない。


 ましてや、もう関与しない、と言っていたあの下っ端神様が、出血大サービスで復活させてくれた、などとはとても考えられなかった。


「ほほぉ、そうか、お主は異世界の人間だったのじゃな……」


 転生者であるという俺の正体を知って、さすがのアズーニも、少し驚いたようだった。


「過去の召喚術でも他の世界の異分子が入ってくることはあったようじゃが、わしが出会うのは初めてかもしれん」


 長く生きていた吸血鬼様といえども、別の次元の世界から来たような人間はそうとう珍しいらしい。

 もっとも、今回とて、俺が転生者だと自己申告しなければわからなかったんじゃないか、とは思える。……なので、アズーニが過去にそれと気づかず、他の転生者と出会っている可能性も充分にあるのだった。


「俺が異世界から来たこと自体と、ここで再復活したことは、あんまり関係ない気がするなぁ。向こうの世界からの転生は、きっと1回限りだったと思うんだ」


 俺は疑問を投げかける。


「ふーむ……一つ、推測できる仮説があるぞ」


 横で聞いていたアズーニは、しばらく考え込んだ後に口を開いた。


「そもそもじゃが、この神殿は確かに人の復活と生を目的とした神殿とはいえ、今やたいした力は残っておらん。だから、お主が復活できた力の源は、この場所にあるわけではないのじゃよ」


「じゃあ、やっぱり俺自身が原因なのか?」


「そうじゃろうな……」


 アズーニは俺の顔を大きな目でじーっと覗き込んできた。


「実はのう……お主の核の中に、這い寄る死神の息吹をガンと撥ねのける、何か隠された力が眠っているのを感じるのじゃ」


「えっ、俺の中に……」


「そうじゃ。何か死に関連するもの、死をはね退ける力、覚えはないか?」


「あ……」


 そういえば、似たようなことは、あの下っ端神にも言われたよーな気がする。死に関する能力が備わっているとかなんとか……。


「その力がどういう作用を及ぼすのかは詳しくわからんが、少なくとも復活できたのは、お主自身に元からある[固有の能力]かもしれぬ、ということじゃ」


「でも、俺にそんなすごい力があるわけ……」


「わしも吸血鬼じゃ、死とは近くもあり、縁遠くもある存在じゃ。自分と似たような力を持っている者はよくわかるのじゃ」


 アズーニは、穏やかに言う。


「吸血鬼の真祖に限るのじゃが、魂の火種がほんのわずかでも残っていれば、自分の死を回避してそこの[棺]から何度でも転移復活できる。その吸血鬼のわしと同じような事を、多分お主はしているのじゃよ」


「ふーん、吸血鬼って死んでも灰とかにならないんだな……俺の元いた世界ではそれが通説だったんだけど」


「そっちはノーマル種の吸血鬼じゃな。真祖のわしの復活のプロセスは、死から転移して即復活……お主の能力とかなり似た感じじゃよ」


「そうなんだ……」


 かねてから不死の王と呼ばれていた存在である吸血鬼の言葉には、それ相応の重みがある。


(復活するのは、俺自身の固有の能力ねぇ……)


 あまりピンとはこないが、今の状況を考えると、確かにそれしか考えられなさそうな気がしてくる。それによくよく考えれば、俺は元の世界でも、一回死んで、一回復活しているのだ。

 下っ端神も、コンピュー……神の選定システムに弾かれて生き返ったみたいなことを言っていたし、もしかすると本当に俺の力なのかもしれない。


「じゃあ、俺って死なないんだな」

 

 特に実感は無かったが、せっかくあるものなら、受け入れて活用すればいい気もしてきた。


 ただでさえ、生きていくには不足している能力が多い自分である。

 あの復活の時の苦痛だけはもの凄く嫌だったが、この能力はうまくすればかなりのアドバンテージになりそうだと言える。


「全くの無能力人間だと思っていたけど、1つくらい取り柄があったんだなぁ」


 俺は、複雑な思いで地面を見つめながら、静かに深くため息をついた。




◆◆◆


「あともう1つ……復活の話で、聞きたいことがあるんだけどさ」

「なんじゃ?」


「さっき復活する時に体がめちゃめちゃ痛くて、力も入らなくて動けなかったよな。それで、アズーニにその……助けてもらったわけだけど、あれってどうしてだかわかる?」


 先ほどのキスシーンを思い出し、ちょっと赤くなってしまう。


「あぁ、あれか。多分、復活ほやほやってやつじゃろうな」


「えっ、なんだ、それ?」


「要は、お主は体力がほぼ空の状態で甦ったということじゃ。[瀕死]というやつじゃな」

 

(あ、あぁ、瀕死か……)


 なるほど……。これは、なんとなくピンときた。


 ゲームとかで死んだ後、生き返った時にHPが最低の値、つまり1だけしか無いっていうのがある。あの状態と似ている気がする。

 そのままでもギリギリ生命活動はできるけど、なにかちょっとでも支障があったら、またすぐHP0になって死んでしまう状態……。現実だったら、ほとんど動けないのは当然だ。


「だから、この神殿にあった極性の回復ポーションを、口移しで飲ませてやったのじゃ。そのまま何もしなかったら、お主の体力が元通りになるまでに、一週間くらいはかかったじゃろうからな」


 そう言って、アズーニは悪戯っぽく笑った。


「あの薬はわしには毒のようなもんじゃが、お主には効果てきめんのようじゃったな」


「ははは、助かったよ。おかげで命拾いした」


 礼を言いつつ、アズーニの言葉に疑問を抱く。


(ん……今、毒って言わなかったか?)


 微笑んでいたアズーニの口の端が、若干だけ焼けただれたようになっているのに、今更ながら気付いてしまう。

 そうか、俺に口移しで飲ませてくれたのだから、吸血鬼にだって少しは効力があったのだろう。通常とは逆の意味で……。


「アズーニ……その、もしかすると、あの薬は吸血鬼にとっては、かなりやばいシロモノだったのか」


 俺は、おそるおそる尋ねてみる。


「いやいや、気にするな。力を失ったとはいえ、元は最上位の吸血鬼じゃ。この程度はかすり傷、蚊に刺されたようなもんじゃよ」


 何事もないかのように言うアズーニだったが、ちょっとだけ照れているのでは、という気もする。


「そうか、ならよかったよ。でも、吸血鬼が蚊に刺されるって、えらくシュールな言い回しなんだけど」


「ははは、なかなか人間らしい表現じゃろう……。こう見えても、わしはお主たちの生態にはわりと詳しくてな」


 軽い冗談を交じえてもらい、俺の気持ちの方も随分と軽くなる。


「わかった、じゃあ、とりあえずよろしくな、アズーニ……」


「こっちこそ、よろしくなのじゃ。なんせ、とてつもなく暇じゃったからな……お主のような客人がくるのは大歓迎なのじゃよ」

 

 アズーニは、にっこりと微笑む。


(この世界の吸血鬼って、全員こんな感じなんだろうか……)


 アズーニと昔の人間たち――の間になにがあったのかは知らないけど、彼女が俺を助けてくれたのは間違いない。

 だから自分にとっては、とても情のある吸血鬼ということだけが確かな事実なのだ。


 うん、これからもきっと、俺とアズーニとの間なら、お互い良い関係を築いていけるだろう。


 俺は、かなりほっこりした気分になりながら、横に座っている吸血鬼を見下ろした。


(この吸血鬼とは、わかりあえる!!)


 しかし、俺がそう思えたのは、ほんのつかの間のことである。


 次のアズーニの言葉は、俺の信頼感をあっさりと消し飛ばす恐ろしいものであった。




「あー、コホン……。と、時にお主、先ほどの代わりといってはなんじゃが、そのぉ……少し[血]をわけてくれんかのぉ?」


(えっ……何?)


 急に変な申し出が飛び出したので、一瞬、頭が混乱する。

 

「はい……? 今、なんて言った?」


「血じゃよ、血、血液、心臓から出ている赤いやつ、ブラッドォォォ。少しでいいのじゃ――――っ」


「えぇぇぇぇぇぇっ!?」


 気がつけば、アズーニの口調がとても変だ。体を左右にフラフラとくねらせ、こちらに寄ってくる。気のせいか、目元もとろけるようなものに変わっていた


「もしかして、吸血衝動ってやつ? いや、ちょっと待って、アズーニ、落ち着いてくれ!」


「が、我慢できないのじゃーっ。もう300年間、ほとんど血をすすってないのじゃ。それでもって、死の神の寄せ付けないほどの力を持つお主の血は格が高くて、実においしそうなのじゃ!」


 ほとんど、駄々っ子のような喋り方である。先ほどまでとのギャップが凄すぎて、頭がくらくらしてくる。


「で、でも、そうしたら俺、また死んじゃわないですか?」

「大丈夫! ギリギリでまたポーションを飲めばいい! 薬が尽きるまでは、万能、永久機関の完成じゃぞ。WIN-WINじゃ!」


 いやいやいやっ、何ゆうてますの……この吸血鬼?


 し、しかも、なんか服を脱いでるし……えええっ、なんでぇっ?


「こっちの方が、直にお主の血の脈動とマナを感じられるのじゃ。ご馳走の美味しさが当社比で150%アップするのじゃ――――っ」


「いやいや、そんなの思い込み、プラシーボだって……!」


 アズーニは俺ににじり寄ってくる。もう完全に目の色が違っている。


「あぁあああぁぁっ、そ、そんな、やめて――――――っ!!」


「優しくするからっ! 痛いのは、最初だけじゃから――っ!! すぐに良くなるから――――――っ!!」




 ガブッ!!


「ぎぃにゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


「う、美味いっ! これは美味すぎるのじゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




 2時間後、アズーニは、この上もなく満足な顔をして、うきうきと上機嫌に自分の棺に戻っていった。


 一方の俺は、棺の中で、泣きながら膝に顔を埋めている。


(うぅぅぅぅぅぅ。もう、お嫁に行けないかも……)



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