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03 来たっ! チート転生?

 空中に映し出された画像からは、なんだかろくでもない数字がくっきりと読み取れる。

 数値の上限がどこまでなのかはわからないが、明らかに[脳筋]で、頭の方が、その……不自由そうな人であることはひと目で分かる


(こ、これが俺の転身先のデータなのかよ)


 くらくらと目眩がする。


 そして、続きにはさらに悪いことが書いてある。




 ――職業:ヤクザ緑蛙組の舎弟――


(おいっ!)

 

 頼むから、勘弁してくれよ。


 よくよく見れば、御尊顔は、[アフリカウシガエル]を轢き潰したようなものすごい凶相、体もそれに見合ったごっつい巨漢である。

 もしも歩道でこんなやつが前から歩いてきたら、10人中8人くらいは脇に避けて目も合わさないようにするだろう。

 人の見てくれや職業に対して特にあれこれ言う気はないのだが、でも、悪いが、それが自分の話であるなら一大事である。


 率直に言おう……


( こ・れ・は・ひ・ど・い ! ! )




 思わず、苦笑いすらこみ上げてくる。


「あ、あのぉ……まさかこれが俺の転生先の姿じゃないですよねぇ」


「ええ……。何かご不満でもおありでしょうかー」


 露骨に視線をそらしながらの返答である。


「却下します!」

「えぇぇぇぇっ!? 困りますっ!!」


 それまではとぼけた対応をしていた彼だったが、今度は文字通り飛び上がりかけた。


「こ、これでも強キャラなんですよー。余計な事は何も考えずにすみますし、今後の人生楽に過ごせますよ」


「いや、動物じゃないんですから、もう少し人間味のあるものをですねぇ……。あのー、これって、俺にも選ぶ権利があるんですよねぇ」


 ここは断固として引き下がるわけにはいかない。こっちも必死である。


「いや、それがその……いろいろとややこしい規則があって調整が難しいんですよねー。ほら、容姿とか入れ替えるだけでも、周囲には影響が出るので、細かく変更していたら、そのぉ、時間がいくらあっても足りないというか……」


 彼は口を尖らせてゴネていたが、俺はいっさい無視して攻勢をかける。


「よくよく考えたら、俺がイレギュラーで亡くなったのって、本当は、そちらの落ち度なんじゃないですかねぇ。だって、人間の生死のシステムや死神の関与なんて、俺は知らなかったわけですし」


「いえ、それは……」


「人を助けようとしたら、それはルールから外れた行為って言われて、勝手にそちらの都合で全てをリセットさせられるのって理不尽じゃないんでしょうか」


「そうは申されましても……」


「ちょっとは本人の希望を受け入れる、そのくらいの便宜はあってもいいと思うんですけどねぇ」


「しかしですね……」


「あーあ、元いた世界に戻るのも嫌だし、もう、めんどうくさいからずっとここにいようかなぁ」


「ぐぁふぁぁっ…………」


 緊迫した時が流れる。


「わかりました、わかりました。仕方ありませんねぇ、えーと……一つ解決策があるにはあるんですよ」


 逡巡したあと、彼は諦めた様にそう言った。




◆◆◆


「別の世界……ですか?」

「はい」


「そこ、[ヴァーステラ]って言いますけど、あなたのいた世界とは違う[異世界]があるのですよ。一応そこでしたら、元いた世界とはほぼ無関係ですので、ご希望はかなり通りますね」


「ど、どの程度まで……?」

「そうですねぇ、容姿とか年齢とか、あとは能力値の変更とかですね。あ、特異体質なんてのもできますよ」 


 彼はパラメータをいじれる項目をざっと上げたあと、続けて転送される世界について話しだす。


「ほら、そっちの世界で、よくアニメとかゲームとかの舞台になっている感じの世界観ですよー。魔法があったり竜のような幻想的な生物のいる……」


「いわゆるRPGなんかにある、ファンタジックな感じの世界ですか?」

「そうそう、だいたいそういった具合ですー」


 彼によると、俺のいた世界で生み出されているファンタジーなんかのイメージは、元々は、偶然、ヴァーステラのイメージの影響を精神に受けた特殊な人が、表現手法として近い物を創作した事が発端であるらしい。


 昨今、似たような[異世界転生もの]の作品がバンバン増えているのも、今ちょうどそうした向こうの世界の影響が強く反映されている周期なので……との事である。


 ――なるほどそうだったのか


 ……それで、話を戻すと、その大元のファンタジックな異世界ヴァーステラは、雑多で不可思議な混沌とした世界なので、けっこう自由に干渉しても良いらしい。

 よって送り込む人間もそこそこ改変できちゃうらしい。


 その大地で暮らす人よりも強靭で、知識レベルも高く、高度な魔法も使えるオールマイティな人間――もしかすると勇者とか魔王とか呼ばれる存在にも……


(き、来たコレ!!)


 これならイケる。元の世界では凡庸以下だった俺だけど、もしかするとここでなら勝ち組になれるんじゃないだろうか。

 勝手気ままに想像の翼を広げた俺は、心の中でヒャッホーなガッツポーズを取った。


「あー……、言っておきますけど、ヴァーステラってそうとう過酷な世界ですよー。たとえ能力を底上げしたとしても、生きていける保証は全くありませんからねー」


 せっかくの期待感に、水を浴びせるような彼の言い方であったが、それでも俺の決心は微塵も揺らがなかった。


 どうせ一度は失った命だし、自分の思い通り……今度は悔いのない様にやってみたい。


 元の現世に戻って、アフリカウシガエル似のヤクザ屋さん「毒島 鬼三郎」として生きていくのだったら――いや、彼自身に全然罪は無いんだけど――剣と魔法の世界とやらで派手に暴れて死んだ方がマシではないだろうか。

 

 下っ端神さまにちらっとだけ見せられた、広大な大地、原理は不明だが空に浮かんでいる島、魅力的な建造物やモンスターが動き回る映像には、自分の血が沸きたつ何かがあったのだ。


 少し身勝手だとは思うが、ここは流れに乗ってみたい。


 よしっ、一か八か、そのヴァーステラに行って、何か大きなことを成し遂げてみせるぞ……。




◆◆◆


「もう、時間が無いので、手早くすませてくださいよー」


 ウキウキ気分で、自分に都合のいいパラメータをペラペラと並べ立てていた俺に、いい加減イライラしたのか、下っ端神が口を差し挟んでくる。


「本当は、できれば、あんまり向こうの世界には行ってほしくないんですよ。でも、たまーにいるんですよね、あなたのように、無謀でわがままな人がねー」


「いやぁ、そこまででもないですけど……」

「別に褒めてませんよ」


 真顔で反応される。


「そうそう、言い忘れてました。確かにここで容姿とかパラメータの調整はできますけど、実はそのままの形ではユキヒロさんを移送する事はできないのですよー」


「それってどういうことですか?」


「えー、まず最初に転送装置で、向こうの世界で[素の人型]を生成します。次に、その座標へこちらからデータをロードして、初めてあなたという個性ができあがる仕組みとなっております」


「なるほど……」


 どうやら、初めから全て完全な状態で送り届けることはできず、まず簡易な素体を組み立てるという話らしい。


 言わば、[器]に[魂]をそそぐようなものですねー、と彼は説明した。空っぽの機械をまず送って、それからソフトウェアをダウンロードするわけだ。

 

(でも、なんかもう生き物って感じじゃない気もするけど……)


「あなたの世界の神話とかだって、そんな感じで神が人を作りましたーみたいな事が書かれていたでしょう……泥の人形に命を吹き込むとか。真実なんて、えてしてつまらないものですよ」


 夢も希望も無いことを平然と言われる。


「――そんなわけで、異世界に送ったあなたの肉体とリンクしてつなぐために、媒体がいるので、この携帯端末を持っていってください。壊れやすいのでなるべく手元から離さないでくださいねー」


「えっ……!?」


 差し出された物体を、俺はまじまじと見つめてしまった。

手のひらサイズの黒く薄べったい平面的物体――前面には明らかに画面を映し出すような四角い枠がはまっている。これは、どう見ても……


「これって、まさか、スマホですか?」


「まぁ、材質とかは似たようなものですが、用途は厳密には違いますよ。あくまで、こちらの大元と向こうの世界とをつなぐ端末ですから」


 彼はしれっと答える。


(いや、でも、なんか、変なロゴマークみたいなものまで入っているんですけど)


 あまりのいい加減さに、思わず戸惑ってしまう。


 だが、これはひょっとすると、さらなる王道を歩むことができる大チャンスかもしれない……。


 生きていた現世に別れを告げ、異世界に旅立ち、覇業を成し遂げた数々の勇者達、その手には神からの贈り物、[スマホ]なる物が握られていたという――そういった物語を確かどこかで見た記憶がある……そう、あるはずだ。


「あのー、この端末ってヴァーステラでも使えますか?」


 おそるおそる彼に尋ねてみる。


「うーん、こちらとの連絡手段としてなら無理ですね。少なくとも私は、向こうの世界に干渉しませんから」


「あー、そうですか……」


「でも、データの検索なんかには使えると思いますね。ここの大元のコンピュー……神の意志箱の中には膨大な神の叡智がつまっていますので、困った時の解決策とか、知りたい情報なんかはほとんど見れると思いますー」


 もうコンピューターって言い切っちゃえばいいのにと思うが、それはさておいて、手っ取り早くチート能力が発揮できるオーパーツが扱えるんだったら、この際何でもいい。


(こいつは確実に使える!)


 このスマホさえあれば必ずや俺の生存率は大幅に上がる――いやもっとすごい高みに登ることだってできるだろうと思われる。




 いろいろとシュール過ぎる説明も終わり、ついに新しい世界へ出立する時が来た。

 あの世界で、今度こそ、自分という存在がそこに確かに生きている実感を持てる、充実した生活を送るのだ。


「それじゃ、行きますね。いろいろ無理を通してすみませんでした」


 俺は、軽く頭を下げた。


「ははは、まぁ、あまり力まないで頑張ってください」


 ついに名前も名乗らなかった下っ端神である彼だったが、最後は少しだけ親身な様子で肩をポンと叩かれる。


 そしておもむろに手を上げると、突如として空間が光輝き出す。


(うぅ……)


 眼の前の景色がだんだんとぼやけていく。


 何もかもが真っ白になり、俺はその光の中に吸い込まれた自分の意識が、はるか遠く彼方、ヴァーステラに飛ばされるのを感じていた。


 ここからだ。ここから、歴史に名を刻む俺の第二の素晴らしき人生がいよいよ始まるのだ!!




 ――――――のはずだった……

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