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02 受付の神様(下っ端)

「お、事情はわかっているようですね、大正解ですよ」


 不思議な装いをした若年の男は、穏やかに俺の言葉を肯定する。


「ここは天国ですか? それとも地獄? いや、あんまりそんな感じに見えない場所だけど……」


「あなたのような物分りの良い人はいいですね。話が早くて助かりますー」


 先ほどまでは乏しかった男の表情が、少しだけ嬉しそうに変化している。


「ここは、その前の前の段階、通称、[受付の間]と呼ばれている場所ですよー。あなたの世界でいうところの待合所とかコールセンターみたいなもんです」


「こぉるせんたぁー……?」

「はい」


(これはまた、俗っぽい単語が出てきたな)


「……それで、あなたは、神……様なんですか?」


「あー、厳密には下っ端なので違うんですが、でも、だいたい似たような存在ですよ。雑務とか事後処理とか面倒事を全て押し付けられて、なかなかにつらい立場ですー」


 どこか普通の人間と会話をしているかのような説明が続く。


「それでですねー、ユキヒロさん。あなたは、ついさっき電車にはねられて死んじゃったんですが、実は問題が発生いたしましてですね……」


「はい?」


「非常に言いにくいんですが、あなたは死ぬはずじゃなかったんですよー、本当はね」


「……どういうことです?」


 意味が飲み込めずに戸惑う。


「つまり、本来死ぬべき人間が死なずに、代わりにあなたが死んじゃったんで、こちらのコンピュー……システムが異常動作をしているという事なんですが、意味わかりますー?」


「……」


(本来死ぬべき人間? 誰のことだ?)


 そこまで考えた瞬間に、ふと思い当たる。


 ――あの女生徒だ――


 この天界受付の仕組みは全くわからないが、本当なら、あの娘が死ぬ予定だったのに、俺が余計なちゃちゃを入れたおかげで、彼女は生き延び、代わりに俺が死んでしまった……と、そういうことらしい。


 そっか、じゃあ……


「あの娘は助かったんだよな、は、はは」


 俺が死んでも彼女が救われたのなら、自分のドジっぷりも少しは報われた気がする。


「良かった」

「よくはありません!」


 間髪をいれず、男が口を挟む。


「あなたが余計な事をしてくれたおかげで、事後の処理がめちゃめちゃなんです。困るんですよねぇ、ただでさえ仕事が多いのにまた残業ですよー」


 上の世界は上の世界で、いろいろと大変らしい。


 さらに彼の説明を聞いていると、あの娘を突き落とそうとしていたオッサンは、人を死に導く、いわゆる[死神]のようなモノで、本当なら人間の目には見えない非物質の存在らしい。


 死神自身は、現実世界の物質にも人の精神にもあれこれ干渉できるけど、その逆――つまり、人からの干渉は無しって感じだ。


(あーなるほど。だから、俺が止めようとしても、オッサンの体に当たらずにスカったのか)


 ちょっとだけ納得する。


「ユキヒロさんは、何かしら死と縁があるっぽいんですよねー。人よりも死に関わりやすい……みたいな。だから、見てはいけないものを、いろいろ見ちゃったりするんですよー」


「あんまり嬉しくないなぁ、それ……」


 要は、幽霊とかお化けとか、そういう霊的なことを言っているのだろう。


 言われてみれば、少しだけ思い当たることはある。小さい頃、たまに、亡くなったはずの婆ちゃんが、実家の片隅に座っている姿を目にした事があった。

 また、川で遭難し行方不明になった人の捜索中に、遺体があるのは多分あの辺だ、と思ってそれを人に言ったら、本当にその場所から見つかったとか……概ねそんなたぐいのものだったけど。


「それで本題に戻りますけど、あなたは、現実世界では死んじゃったのに、こちらの死の選定システムから弾かれて、この場所で勝手に生き返っちゃったという迷惑極まりないバグ的な存在です」


 なにやら、ひどい事を言われている気がする。


「このままだと天国にも地獄にも行けず、正当な輪廻転生もできずに、ここでずっと漂流する羽目になるのですけど、うちとしては、大変に困りますー」

 

「はぁ……」

 

(そう言われてもねぇ、じゃあ、つまり、どうすれば……?)


「つまり、あなたには生き返っていただくということで……」


「……はい?」




◆◆◆


 どうやら俺は、死んではいない人だったので、即、住んでた元の世界に送り返される――そういう事らしい。


「原則論として、今よりも過去や未来の時代に生き返るのは駄目です。あと、人から生まれる形での転生――つまり赤ん坊ですけど、それも通常の輪廻転生のシステムの流れに乗っかっちゃうので駄目ですねー」


 よくはわからないが、けっこう制約が多いらしい。


「それからですねー、これまでの羽沢さんの記憶も消去、改ざんされますのでご了承ください」


「消去ですか?」


「今までの記憶を持っていると、いろいろ周りとトラブルを起こす事になるからですよー。ごくたまに前世の記憶がーみたいな人がいますけど、あれはイレギュラーで、普通は覚えていないでしょー」


 確かに、羽沢の記憶を持ったまま、親とか数少ない知人に遭遇した場合、なにかとリアクションに困りそうな感じではある。


 ……で、そうなった時、ここの業務上、因果関係が狂うとかで、なにかと面倒事は避けたいという事情も垣間見える。


「それでは、何も質問がなければ、ここのコンピュー……ランダムにチョイスした人間がもう用意されてるので、その人として現世に肉体を再構成させますねー」


「ち、ちょっと待ってください!」


 何かとさっさと進めようとしている彼をさえぎって、俺は切り込んだ。


「確かに自業自得ってのはあるんですけど、俺、これまであまりいい生き方ができてなかったもので、その……もう少しなんとかしたいなぁ、と思っているんですよ」


「は、はぁ……、なんとかですか?」


 彼は、表情こそ崩さなかったものの、少しだけ面倒くさそうな態度に取って変わるのがわかる。


「えーと、ユキヒロさん……常識範囲内ではありますが、多少の能力もボーナスで付与しちゃいますので、前よりはイージーモードだと思いますよー。少なくとも今までの人生よりは気楽に生きていけますって。それは幸せな一生を送れること間違いなしですよー」


 矢継ぎ早にまくし立てる様子に違和感、いや、もはや危機感すら覚える。とにかく早く済ませたい様子がありありと見て取れる。


「あのー、俺の転生先にチョイスした人間のデータをちょっと見せてください」


「う……ぐっ」


 なぜか言葉に詰まっている。


「ほら、俺がこれから生まれ変わる人間のデータですよ。それくらいの権利はあると思うんですけど……」


 すかさず、相手に切り込んでいく。彼はしばらく目を白黒させていたが、やがて……


「わ……わかりました」


 渋々といった感じで片手を上げ、空中に指で模様のような軌跡を描きだした。

 すると何もない空間に、パッと大きな画面が現れ、そこにずらっと並んだ文字と顔のイメージが光を伴って浮かび上がってくる。


「なっ!?」


 これが俺の新しい自分なのか……?




――「毒島 鬼三郎」 年齢34才――


 筋力290 体力275 知力1 賢さ1 器用さ1……




 ……いや待て、なんだこりゃ?


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