『十巻以上続くコミックスは惰性』って安心院さんが言ってたけど小説は何巻までいいんだろう。
「五分四十八秒…。遅刻ね。」
ストップウォッチを見せつけるように持って、僕にそう伝える少女は嗜虐的な笑みを浮かべて理事長席に座っていた。
「あ、じゃあ帰ります。失礼しました。」
「うそうそうっそー!!!うそです!四十八秒の遅刻なんて許しちゃう!むしろアレよ!ストップウォッチが壊れてたんじゃないかしら?!きっとそうよ!だから帰らないでごめんなさい!」
「なんでお前がここにいるんだよ。後輩。理事長は?」
少女は持っていたストップウォッチを投げ捨てて僕の右腕をぐっと引っ張る。
「後輩なんて他人行儀な!昔みたいにスズにゃんって呼んで!」
「昔みたいも何も、僕とお前が知り合ったの二年前じゃん…。」
しかもスズにゃんってなんだよ、一回も呼んだことないだろ。
「そこは愛でカバーね!」
「で、理事長は?」
「スルーとは…。興奮するわね。」
きもいなぁ。
「え、ホントに理事長いないんだったら僕帰っていい?めちゃくちゃ大事な予定があったんだけど。」
「え?そ、そうなの?華織に予定なんてないだろうと思ってたけどそれは悪いことをしてしまったわね。」
喧嘩売ってんのか。
じゃあ僕を呼びつけたのはこいつなのかな。
僕の数少ない友達との遊びを邪魔した罰をどうとらせようか…。
「でも困ったわね。おじいちゃんはさっき出て行ってしまったし、あ!でもすぐ戻るって言っていたからもうすぐ戻ってくると思うわ。ご、ごめんね華織。」
コイツじゃなかった。
「てことは僕を呼びつけたのは理事長なんだろ?鈴蘭は悪くないよ。」
そんなにしおらしくされると困ってしまう。
「あ、でも鈴蘭、お前は呼ばれた要件聞いてる?お前もここにいるってことは理事長に呼ばれたんだろ?」
「ううん、違うわよ?私は華織がおじいちゃんに呼ばれる校内放送を聞いて、面白そうだから来たの。そしたら華織より先に着いちゃってお留守番とタイムの測定を任されたわ。」
いい性格してるわ…。
せめて何かしらの情報を聞き出して待っていて欲しかった。
「で、でもね華織?予定があったのならそっちに行ってもらっても構わないのよ?おじいちゃんには私から言っておくし…。」
いやホントにいい性格だなコイツ。
「いや、もうここまで来ちゃったし待つよ。せっかく久しぶりに二人きりなんだし世間話とかしようぜ。最近どう?」
「え?!さ、最近?私の最近といったらそうね…。うーん、あ!私この前入学式があったわ!」
知ってるよ…。入学式の準備は僕も手伝ったんだから、式当日も現場にいたし。ていうか当日会ったじゃん。
「そ、そうか。ん、そういえばこの前言い忘れてたけど鈴蘭。制服似合うな。」
逆月学園の制服はデザインは多少違うが男女共にブレザーなので先月まで中学生だった子が着ると制服を着るというより、制服に着させられているという感じになるのだが、彼女はいやに着こなしている感じがする。
「お、おう。なんだなんだ。そんなお世辞を言うなんて。はっ!まさか!私を妹にするだけに飽き足らず、口説いて手籠めにしようってのかい!そんな言葉には負けないぞ!」
「あっはっは。ナイ。」
ていうかいつの間に妹になってんだ。
うちにはもうすでにめんどくさいのが一人いるので妹は間に合ってます。
「むーーー。妹、年下、後輩、生意気、属性てんこ盛りな美少女の何が不満なのかしら。」
「水仙が妹と生意気と美少女ってのをもってるからなぁ。」
「え…華織まさかリアルの妹に萌えてんの…?ひくわぁ…。」
萌えてねぇよ!あらぬ誤解を生む!変なこと口走るな!
「………水城君は実妹を性的な目で見ている…?!」
そんな不名誉な発言が後方から聞こえたので振り返ると、そこにはスマホを落とし、ワナワナと震えている先生の姿があった。
「警察に通報…いや、その前にご両親に連絡?」
まてまてまてまて!警察はマズい!
いや、そもそも誤解だから!
電話を止めようと先生の元へ駆け寄ろうとすると足がもつれて、
「いったた…。はっ!」
スマホを拾う先生を押し倒してしまった。
「つ、つうほう…!…水仙さんに報告します!!!」
それだけは勘弁してください!
本日二度目の土下座は理事長室で、床が絨毯だった分座り心地がよかった。