Episode:98
「それにしてもこのシティの偉いさんは、やること汚ねぇな」
「汚いと言うよりあれは、気が乗ったかどうかと利益があるかどうかで動いてるな」
誰もが酷評する。
「けどコーニッシュ大佐ったら穏健派だから、ほかとは違うと思ってたのに」
憤懣やるかたないって調子でつぶやいたのは、ナティエスだ。
「でもナティ、あの大佐、昔はワサールのテロ組織を片っ端から潰してたって言うよ」
ここまで軍の信用がない国も、そう多くはないだろう。
「ま、偉いやつなんて誰でも同じってことさ。
そしたら、そのコーニッシュ大佐をどうにか叩きのめして……」
「――ねぇ、そのウワサ、ホントなの?」
怒りに燃えてたみんなに水をさしたのは、母さんだった。
「さぁな。でも、火のないところに煙は立たないとも言うし」
「そりゃそうだけど……」
どうもこの話に納得できないらしくて、顎に手を当てて考えこんでいる。
「リオネルはあたし、直接知ってるのよ。けど彼、犯罪組織とつるむようなタイプじゃないわ」
「でも姐さん、場所から言っても可能性大ってやつですよ」
ダグさんの言葉にみんなも視線で同意したけれど、それでも母さんはイエスと言わなかった。
「そりゃ軍務には忠実だから、一旦命令となればテロ集団の殲滅だってするでしょうね。
――けどね、それならあたしもおんなじ。
もう20年以上も傭兵やってるんだもの、殺した人間の数なんて、数えるのもバカらしいほどになってるわ」
静かな言葉。
ただその奥に潜むものの凄さに、みんな圧倒される。
「戦争ってそういうもんよ。
けど個人となれば、少々別。行動には当人の性格とか考えかたが出るわ。そして彼……そういうのは嫌いだったのよ」
静寂。
誰もが母さんの言葉を、胸の内で繰り返している。
「でも、そうするといったいどこの誰が……?」
誰かの呟きに、母さんが笑った。
「あたしが出向いて探してくる」
「探すってあなた、役人街中を訪ねまわろうって言うの?」
レニーサさんが「なにを言うんだろう」って顔で言う。
もっとも母さん、この程度でこたえたりしない。
――こたえてくれたらいいのに。
ともかく得意そうにふふんと笑って、あたしたちに説明した。
「イマドが観てたものは、あたしもちゃんと覚えてる。
だからそれを頼りに役人街中探せば、今夜のうちにその屋敷の場所が分かるわ♪」
「――便利ね」
「そうでもないわ」
「ふぅん、そうなの?」
「そぉよ」
この話はあたしも聞いていた。
あたし自身はこういう能力はないから分からないけど、意外に範囲が限定されたりする上、かなりのリスクがあるのだという。
端から見ていると便利そうでも、案外魔法と同じで、使い勝手はさほど良くないのかもしれない。