Episode:97
「だいいちこんなでかい家が並んでる場所なんて、この辺にありましたっけ?」
「役人街じゃないかい?」
もうこの状況に慣れてしまったみたいで、シーモアが横から言葉を添えた。
「そうなのか? よくわかんねぇけど。
屋敷の目の前がでっかいバス通りで、その向こうは公園みたいだな」
「じゃぁ、まちがいないわよ」
ナティエスもうなずく。みんな心当たりがあるみたいだ。
「でも役人街ったって広いわ。
まぁ屋敷ばっかりなら西南地区だろうけど、それだってけっこうあるのよ?」
「あ、そうか……」
けどそうレニーサさんに指摘されて、この町を良く知ってるシーモアやナティエス、ダグさんやガルシィさんがため息をつく。
「どんな屋敷か、細かいことわかる?」
「さすがにそこまでは、分かんねぇなぁ……」
「だだっぴろい庭に軍用犬が放してあるくらいかしら?」
イマドも母さんも、それ以上はわからないみたいだった。
あたしも下をむいたまま考えて見たけれど、いい考えは浮かばない。
「しょうがない、やっぱりここは――あら、お帰り♪」
「なんだ、もうみんなお揃いか」
反則技を使える母さんとイマド以外では、いちばん情報集めが上手い人が帰ってきて、みんなが一斉に期待のまなざしを見せた。
「ゼロール、そっちは何かわかった?」
母さんがいきなり聞く。
「ウワサばっかりだよ。
どれも確証がなくて、情報としてはイマイチだな」
意外にもゼロールさんのほうは、さほどいい情報はなかったようだ。
「それよりあんたたちこそ、何かつかんだみたいだな」
「こっちも確証はないのよ」
言いながらも一通り、母さんはゼロールさんに役人街のことを話して聞かせた。
「そんなわけで、なぁんか役人街の住人が絡んでるのは、わかったんだけどね。
ただそれが、どこの誰で何の目的かはさっぱり」
うんうんとみんなもうなずく。
「ウワサの中にそれ系の話、何かなかった?」
「あったぜ」
にやっとゼロールさんが笑った。
「コーニッシュ大佐が、どっかの犯罪組織とつるんでるってウワサが、最近聞こえてきてるそうだ」
「コーニッシュ大佐? あの陸軍の?」
あたしもびっくりして顔を上げる。
ロデスティオ軍のコーニッシュ大佐といえば、軍の中でもトップクラスの実権の持ち主だ。
「ということは、大佐が庇護してるせいでファミリーはやりたい放題。ついでになにをやってもお目こぼし……ってとこかしらね?」
「それなら話の辻褄が合うな」
レニーサさんや切れ者のガルシィさんも、納得したみたいだ。
「つまるところ、ファミリー連中はなんやかやと手を回してもらって、大佐はその見返りに大金をもらう。資金源はおおむね麻薬。
ついでにいろいろ邪魔なクリアゾンなんかを、ファミリーが潰す手助けをして、もう一段双方で甘い汁、と」
「確かにクリアゾンが潰れりゃ、その隙にシティを牛耳れるしな」
「しかも警察やら軍やらは、反抗分子がいなくなって喜ぶってわけだ」
みんな、話の筋道が見えてきたらしい。