Episode:95
「母さん……」
いつもの、泣き出しそうな表情。
「ケガ、ないわね?」
言って抱きしめると、この子が腕の中で泣き出した。
「あたし、あたし……」
「――いいのよ」
優しいルーフェイア。シュマー家はもちろん、ふつうの人間の間でも、これほど優しい子はそう多くないはず。
なのにこの子には、人殺しの才能がある。
動き出したが最後、機械より正確に敵を倒していく。
不憫だった。
もっと平穏な生活こそが、この子には似合うだろうに……。
「最初にどうするか、あなたに言っておくんだったわね。
いやな思いさせて、悪かったわ」
謝りながらこの子の頭を、撫でるしかなかった。
親のあたしがもう少し注意していれば、こんな目に遭わせなくて済んだはず。
こういう子だからぜんぶは防げないけれど、だからこそなるべく、こういうことは少なくしてやるべきなのに。
「レニーサ、汚してごめんなさいね。あとでちゃんと始末するわ」
慰めながら、後ろに声をかける。
「よろしく頼むわね。あたしでも始末できなくはないけど、やってもらえれば助かるわ」
それ以上言わないとこ見ると、レニーサは予想してたみたい。
「おばさん、ちゃんと分かったの?」
ナティちゃんが半信半疑で、尋ねてきた。ここまで見てて思うけど、この子は案外冷静で、にこにこしながら核心突いてくるタイプ。
「大丈夫、だいたいわかったわ。イマド、あなたも観たわね?」
「――ええ」
あたしを遥かに上回る能力の持ち主の彼が、はっきりうなずいた。
「リーダー格の男?」
「そです」
――どうやら狙いは当たったみたいね。
人間ってのはたとえ喋らなくても、思うことは止められない。
ましてや今みたいに見当違いの人間に尋ねたりしてるの見ると、優越感も手伝って、内心せせら笑いながら聞かれてることを思い浮かべる。
そう思って下っ端に聞いたのが、大当たりだった。
「じゃぁいったん上にもどりましょ。そこで場所を特定して、あとどうするか決めないとね」
まだべそかいてるルーフェイアを抱き上げながら、お店の方へ戻る。
「いいのよ、ルーフェイア。あなたのせいじゃないんだから」
そう何度も、繰り返しながら。