Episode:94
「こら、下がりなさいってば」
慌てて言ったけど、ちょっと遅かった。
好機と見た男たちがすばやく動く。
「おいっ、この娘の命が惜しかったら、俺達を開放しろっ!」
ルーフェイアに刃物突きつけて、人質作戦に出る。
――知らないわよぉ、そんなことして。
ちなみに当の本人は太刀持ったままきょとんとして、挙句にこんなことまで言い出す始末。
「あの、危ないですから刃物は……しまっていただけませんか?」
絶対状況分かってないわね、この子。
「度胸あるよなぁ、あいつにあんな真似するってのはさ」
「あたしもそう思うね」
「命知らずって言わない?」
この子の友達も、みんなしてそんなこと言ってるし。
「お、お前ら、こいつがどうなってもいいってのか!」
「命が惜しかったら、その子放したほうが絶対いいわよ?」
可哀相だから忠告する。
「何ワケわかんねぇこと言ってやがる! だったら――!」
あ、知らないっと。
男がナイフを動かそうとした瞬間、それまでぼーっとしてたルーフェイアが動いた。
「――トォーノ・センテンツァっ!」
いきなりの電撃に、ルーフェイアを捕らえてた男が怯む。
もちろんあの子がその一瞬を逃すわけがなくて、するりと腕から抜け出しながら強烈な柄での一撃を、下腹部の急所めがけて叩き込んだ。
捕らえてた男が悶絶して動けなくなる。
「こ、このっ――」
逃げ出してしゃがんだ格好になったあの子を捕まえようと、近くにいた男が押え込むように覆い被さる。
瞬間勢いをつけて、ルーフェイアが伸び上がった。
――あれは痛いわね。
男の下顎に、下からの見事な頭突き。
次いで伸び上がりながら抜かれてた太刀が、大きく振り下ろされて首が飛んだ。
後ろから来た男へは舞うように反転しながら一閃、腹部が裂かれる。
「このガキ――!」
最後の男が銃を抜いた。
だけどあの子、それを見てもまるっきり動じない。
「あ、姐さんっ!」
「大丈夫よ」
ダグくんやガルシィくんが慌てて助けに行こうとしたけど、あたしはそれを止めた。
あの子は……そんな可愛い子じゃない。
「あたしたちが下手に出たら、邪魔になるだけだわ」
立て続けの銃声。
同時にルーフェイアが前へ出る。
魔法の防壁が弾をはじく音。
「ば、化け――!」
言葉はすべては聞けなかった。
まずは下段から。そして返す刀で上段から。
たったこれだけであの子がケリをつける。
「なんて子だ……」
誰かがつぶやいた。
死の舞の後に残ったのは、死にかかった――あるいは死んだ――男が4人と、呆然と中央に立つルーフェイア。
そのルーフェイアが振り向く。