Episode:90
「へぇ……なんか面白い話ってあります?」
シーモアちゃんも学院生なだけあって、話訊きたがるし。
「面白い話? そぉねぇ……」
正規軍に振り回された話なら山ほどあるんだけど。
とりあえずいちばん傑作だったの、あの話かしら?
「いつだったかな、ロデスティオの傭兵隊――ってあたし、ここがいちばん多いんだけどね、そこが例によってアヴァンへ侵攻した時があって……」
お嬢ちゃんたちが身を乗り出してくる。
――話甲斐あるわぁ♪
けど、話さないうちに腰折られちゃった。
「母さん、そんな話してる場合じゃないでしょ……」
「え? あ、なんの話だっけ?」
さっぱり覚えてないんだけど。
「……場所を突きとめたって話……だと思うんだけど……」
「そうだった?」
こう言ったらルーフェイアの方も不安になっちゃったらしくて、困った顔してイマドのほうを向いてるし。
「俺だってしらねぇって。
シーモア、結局ここで何の話するんだ?」
「あんたら……」
――なんだ、結局誰も知らないんじゃない。
知らないこと訊かれても、困るのよねぇ。
「と、ともかくね、まずつきとめた場所を教えてもらえない?」
妙にレニーサ慌てて、どうしたのかしら?
でもつきとめたの、あたしじゃないし。
「ディアス、どこだったの? 騒ぎの場所からは、遠くなかったみたいだけど」
「錆びビルの隣のホテルだ」
なにそれ?
錆びたビルなんてお目にかかったことないわ。って違う違う、その隣か。
「そこが丸ごと、ですかね?」
ダグくんが腑に落ちないという表情でディアスに尋ねる。
もっとも彼ときたらいつものごとく黙ったままで、代わりに答えたのがレニーサ。
「丸ごとってことはないでしょうね。なにせあそこの支配人、あたしの知りあいよ。
多分連中、ヤク売る日は部屋借りて、いろいろやりとりしてるんじゃないかしら」
「敵もさるものってワケね」
あらやだ。
ルーフェイアったら露骨に「わかってるのか」って顔で、見なくたっていいじゃない。
「でもつきとめた先がホテルじゃ、それ以上はたどれなさそうね」
レニーサがふぅと息を吐いた。
「そうですよね……」
ルーフェイアも神妙な顔になっちゃうし。
けどその中、さすがディアス。面白そうに笑ってる。
――これはきっと、なんか楽しいことが待ち構えてるわね♪
思ってるうちに表の扉を叩く音が聞こえた。
「――レニーサ、荷物引き取ってくれるか?」
「あ、はいはい」
配達屋?の声に、レニーサが慌てて出てく。
「まったく、こんな時に荷物なんて……ちょっと、何よこれ」
「なぁに、どしたのよ〜♪」
いきなり深海みたいに冷たくなった声に、あたしも見に行ってみたりして。
「あら、これは確かに変わったものが届いたわねぇ?」
あたしのとこにもいろんなとこから届け物来るけど、こういうのは見たことないもの。
「変わったもの……?」
気になったのか、子供たちも見に来る。