Episode:88
「それなら大丈夫、ディアスが追ってるわ。
それになんたってこっちには、捕虜もいるしね〜」
「さすが……」
ルーフェイアの両親ってだけあって、ハンパじゃない。
「ま、ディアスならここの育ちだし、どうってことないでしょ。
それより例の店、どっちだっけ?」
「………」
――なんつーか、ほんとルーフェイアのお袋さんかね?
真面目で大人しい性格のあいつとは、どうみたって正反対だ。
「えっと、向こうだったかしら?」
しかもどういう頭の構造してんだか、自分が今来た方向へ行こうとする。
「それじゃ反対ですって。
あ、でもその前にみんなを下げないと」
こんなザマになった以上、長居は無用だ。
まずはいちばん手近にいる仲間――つまりはナティたち――のところへ行く。
「シーモア、大丈夫だったの?」
「ああ」
成り行きを見てたみんなが、心配そうに声をかけてきた。
「ルーフェイアのお袋さんが入ってくれたからね」
「そっか。でもよかった」
けど、ほっとしてるヒマがない。
「みんな、ここから急いで退こう。
それと退きながら、手分けして他の連中に連絡つけないと」
ここであたしが襲われたってことは、多分ファミリーのやつらのアジトが近い。
だからこんな風に尾けられたときのために、あいつらみたいな兵隊が見張ってて、場所を突きとめられるのを防いでるんだろう。
「けど、あのヤク売りどうすんの?」
「そっちはルーフェイアの親父さんが、尾けてるってさ」
なんでもこの親父さん、昔はここじゃ知られてたらしい。
ナティも納得したらしくてうなずいた。
「じゃぁそっちも大丈夫かな。
けどおばさん、どうしてここにいるんですか? 確かどっかへ行くってさっき……」
それはあたしも不思議だ。
確かスラムの外へ情報集めに行くって言ってたのに、こんなに早く片付いたんだろか?
「なぁによ、あたしが帰ってきたら困るみたいな顔しちゃって。
ちょっとツテがあってね、この手の情報はすぐ集まるのよ、あたしは」
――やっぱこのおばさん、ヘンだ。
でも本人はこれが普通らしいし。
「もっとも最初っから、アタリはつけてたんだけどね。
で、戻ろうと思ってスラムの入り口でディアスと合流して、近道してたら妙な連中がいるのに気付いたってワケ」
それでつけてきたらあの騒ぎになって、思わず割って入ったんだって言う。
「ともかく早く帰りましょ。じきディアスも……あら、戻ってきたわ♪」
ダンナが戻ってきてこの人、妙に嬉しそうだ。
しかもダンナはダンナで飄々としてるし。
「どう、首尾は?」
ルーフェイアのお袋さんにそう言われて、親父さんのほうが黙って親指を上げた。
「そ。さすがディアスよね〜♪ じゃぁあとは、帰って作戦でも練りますか。
あ、そうそう。悪いけどディアス、その荷物持ってよ」
気絶してるヤツをダンナさんに押しつけて、おばさんが歩き出す。
って、だからそっちは……。
「反対ですってば」
「あら、そうだったっけ?」
――ホントにこの人、大丈夫なのかね?
なんか不安になりながら、あたしらは引き上げた。