Episode:86
――殺ったか?
特製の弾仕込んどいたのがよかったらしい。
警戒したまま、あたしは初めて後ろを向いた。
ここらじゃあんまり見かけない服装の男が、顔から胸にかけて弾を受けて倒れてやがる。バカとしか言いようがないけど、あたしが子供だと思って油断したんだろう。
でもとどめを刺そうとしたその時、また気配を感じた。
こんどはとっさに横に避ける。
――って、うそだろっ!
飛び退いた先にもうひとり剣――というか、これは青龍刀って類か?――を構えてるなんざ、よほど運が悪いとしか言いようがない。
さすがにケガは覚悟する。
青龍刀が振り下ろされた。
――?
刃が来ない。
代わりに激しく金属がぶつかり合う音。
「いい大人が、子供相手になにやってんのかしらねぇ?」
同時にこの状況じゃ、呆れるしかないほどのんびりした調子の声が響いてきた。
目の前を金髪が踊る。
「ルーフェイアの……?」
「ケガないわね?」
視線は連中から外さずに、この人が訊いてくる。
「あ、はい」
「よかったわ、間に合ったわけね」
割って入ってくれたのはルーフェイアのお袋さんだった。
そのうえウソみたいな話だけど、襲ってきたやつが持ってた青龍刀の刃が、すっぱり切り飛ばされてる。
この人が持ってるのは、青龍刀なんかに比べたらオモチャみたいにしか見えない太刀だ。
――それで、あの分厚い刃を両断してみせたってのか?
よほどの実力がなきゃ、こんなマネできっこない。
「ちょっと待っててちょうだいね。こいつら片付けるから」
あたしを後ろにかばうみたいにして、ルーフェイアのお袋さんが無造作に立ちはだかった。
青龍刀を両断された男が、もうひとつ背負ってたほうに持ちかえる。
しかも周囲の暗がりから3人も出てきやがった。
「お、おばさん、ヤバいんじゃ……」
「だ〜いじょうぶよ。こんなの最前線じゃ、囲まれたうちにも入らないから」
「………」
気軽にそう言われちゃ、どう返していいかわかりゃしない。てか、囲まれる時点でかなり問題だし。
にしても娘のルーフェイアも常識外れだけど、このお袋さんもそうとうってやつだ。
「さ、あたしが代わりに遊んであげるわ。
――最初はどなたかしら?」
しかもすっごい楽しそうな調子で言うんだから、とんでもないとしか言いようがない。
「あらやだ、遊んでくれないの?
それじゃ……こっちから行くわよっ!」
言いざまこの人が動いた。
――え?
何がどうなったんだか。
ともかく次の瞬間、ひとりが切り倒されてた。
「あらやだ、見かけ倒しねぇ。もうちょっと手応えあるかと思ったのに」
お、おばさん、この状況でそれは……。
なにせこの人、平気な顔してこいつらにスキだらけの背中向けて、倒したやつをちょんちょんつま先で蹴っ飛ばしてる。
もちろん連中、その隙を逃したりしなかった。
3人が一斉に襲いかかる。