Episode:84
「――大丈夫?」
「ああ。多分上手くいった」
そう答えながら気配を探る。
あのヤク売りの後ろを、シーモアの仲間たちが尾けてるのが伝わってきた。あいつらがしくじるとは思えねぇから、半分以上は上手くいったってとこだろう。
それからやっと俺は気付いた。
ルーフェイアのやつが、微妙に離れてる。さっきぺたぺたくっつきたがってたのとは大違いだ。
――あ、なるほど。
こいつから僅かに怯えが伝わってきて、俺は理由を把握した。
どうもヤク売りとのやり取りが、ショックだったらしい。
「ごめんな、驚かせちまって」
華奢なこいつの頭を撫でてやると、やっと安心した顔になった。
――ほんと、ガキなんだよな。
ただ可愛いのも確かだ。
「お〜ふた〜りさん♪」
ひょいっとウィンが顔を出してきた。しかもにこにこしてやがる。
「兄ちゃん、すっかりだね♪」
このガキ、けっこうマセてる。
「やったじゃん、こんな綺麗なねぇちゃん相手でさ」
「お前にはやらねぇからな」
間じゃルーフェイアが、きょとんとしてた。なにをどうやっても鈍いこいつには、このやり取りの意味がわかってない。
で、妙なことを言い出しやがった。
「……ウィン、何かいいことあったの?」
「いいことって……どうしてそうなるんだよ……」
「だって、なんかにこにこしてるから……」
ウィンのやつが、見事なくらいに沈黙する。
もっともこんくらい鈍くなきゃ、あんなふうに俺にくっつけないだろう。
「そ、そう言う意味じゃなかったんだけどな……。
とりあえず、武器」
どうにもリアクションの取れなくなったウィンが、間を持たせようと武器を差し出した。
さっき俺らが預けておいたやつだ。
「悪りぃな」
「ありがとう」
「別に〜。オイラ、持ってただけだもん」
口ではそう言いながら、ウィンのやつは嬉しそうだった。
自分が役に立ったってのがよかったんだろう。
それにしてもやっぱりこれがないと、今ひとつ落ちつかない。
ルーフェイアもその辺は俺と同じかそれ以上らしくて、しっかり握ってやがった。
「今さ、みんながあいつ、尾けてるんだ。
で、連絡あるまでオイラたち、レニーサさんのお店へ帰ってろって」
「そうか」
確かに俺らじゃ、これ以上はなにも出来ないだろう。
「さっさと行こうよ。オイラ、冷えちゃった」
「んじゃ向こう着いたら、なんかあったまるもん作ってやるよ。何か欲しいもんあるか?」
ウィンがいっちょ前に腕組みしながら考えこんだ。
「んと、なに頼もうかな……」
「イマド、あたし、さっきのスープ……」
意外にも、ルーフェイアの方からリクエストが出る。
「さっきのって、ナティエスが作ってたやつか?」
「――うん」
こいつがわざわざ言うなんざ、よほど気に入ったんだろう。
「よし分かった。
レニーサさんのとこに材料あるかどうかわかんねぇけど、どうにかして作ってやるよ」
「え、じゃぁオイラのリクエストは?」
「後だな」
「ひっで〜!」
騒ぐこいつは放っておいて、俺らはレニーサさんの店へ向かった。




