Episode:83
「でも、知らねぇやつに売ったら、ボスに……」
「こんないい売り場、俺だって喋らねぇよ。
それにもし売ってくれるなら、お前にも少しやるぜ。手数料ってことで」
こいつの目が輝いた。
「そ、そういうことなら……」
恐る恐るって調子で、小さな包みがひとつ、差し出される。
――ふぅん、2、3回分か?
「これで……300ルルシなんだ」
確かに安い。シーモアたちから訊いてた相場の、半分以下ってヤツだ。
ただクスリが目的じゃないから、ここですんなり買うわけにいかなかった。
「――おい、待てよ。これだけ出してんのに、これっぽっちか?」
違う方向で突っかかる。
「え? いや、あとこれだけなら」
さらに包みが、20ほど出された。
「今日は、これでぜんぶなんだ」
「じゃぁ、どっかからもらって来いよ。10や20どころか、50だってまとめて買うぜ」
「そう言われたって……」
「ざけんなっ!」
可哀想っつや可哀想だけど、こいつの胸倉をつかんでナイフをつきつける。
「客が買うって言ってんだ。用意するのが売人の仕事だろ。
さぁ、さっさともってこいよ」
「で、でも」
慌てるこいつの首筋に俺はナイフをなぞらせた。
ごく浅い傷がついて、紅く染まる。
「イヤなら、お前なんざ殺して、ありったけ持ってってもいいんだぜ。
こっちが機嫌よく金払うって言ってんだ。さっさとどうにかしろ」
「ま、待ってくれよ! あ、明後日なら!」
こいつの命乞いに、俺はナイフを引いた。
「きょ、今日はもうダメだけど、次なら持ってくるから!」
「ホントか?」
クスリ売りが、必死に頷く。
「次が明後日なのか?」
「あ、いや、詳しい事はその包みの中に、入ってるからさ」
要するに、やたらと口にしちゃダメなんだろう。
ここら辺が潮時と見て、俺も折れる。
「ふぅん、まぁいいか。とりあえず、いま持ってるだけでガマンしてやるよ」
「う、うん」
ありったけ受け取って代金払う。かなりの量だ。
「ホントにもう、これ以上ないのか?」
「ないよ……。ボスからもらったぶん、それでぜんぶなんだ。今日はもう店じまいだよ」
「そうか」
だとすりゃ、こいつは売り上げ持って、ボスんとこへ行くだろう。
「こんども、お前が来んのか?」
「分からない。でもたぶん、違うやつだと思う」
どうやら、毎回違うヤツが来るほうが多いらしい。見つからないわけだ。
「ともかく、悪いけど俺帰るよ。売れたんだ、長居はしたくないし」
言って、クスリ売りが路地を出た。
俺も続いて路地を出る。ルーフェイアが、そっと近寄ってきた。