Episode:82
「ルーフェイア、行くぞ」
「――うん」
俺らも立ち上がって、そいつのあとをこっそりつける。
そのうちヤク中の野郎は、細い路地の入り口で立ち止まった。
「何してるのかな……」
「悪りぃ、ちと黙っててろな」
ルーフェイアのヤツを黙らせて、集中する。
――あ、だからルーフェイアのおふくろさん、俺を名指ししたのか。
路地の入り口で、合言葉のやり取りがされてる。けど小声だし、ヘタに近寄ったらそんだけでバレるから、ふつうなら聞き取れねぇ。
でも俺みたいのだと、離れてても気合入れれば、けっこう分かるわけで。
自分でも分かんなかったけど、たしかにこういう役には、俺みたいのはうってつけだ。
「イマド……?」
心配になったらしくて、ルーフェイアのヤツが訊いてくる。
「あいつらの合言葉、聞いてた」
「分かった?」
「ああ」
こいつが俺の返事に、ほっとした表情になる。
「んじゃ行ってくるわ。お前はここで待ってろな」
「うん」
こーゆーキワドイやり取りの時に、こいつのボケっぷりは下手すりゃ致命的だ。間違っても、連れてくわけにゃいかなかった。
――ホント言えば、さいしょっから俺一人で来りゃいいんだろうけどな。
ただイザって時に独りだと、何かと行動が制限される。学院の訓練とか任務でも、よほどのことがなきゃ単独行動は厳禁だ。
その上今は俺もルーフェイアもメインの武器を持ってないから、尚更気をつけないとヤバい。
「何かあったら、すぐに誰か呼ぶんだぞ。俺でもシーモアたちでもいい。
あと手、出されそうになったら、容赦なくやれよ。いいな」
「……わかった」
こいつの場合こうやって言い置いておかないと、命に関わらない限りは、絶対ためらって手を出せない。
「……気をつけてね?」
「平気だって」
前のやつが離れてから少し間を置いて、俺はそいつに近づいた。
「なんだ? 見かけない顔だな。何の用だってんだよ」
「雪が降りそうだろ」
この言葉で、こいつの顔色が変わる。
「誰から聞いた?」
「誰でもいいだろ。
――幾らだ?」
いきなり本題に入る。
クスリ売ってるヤツはせいぜい俺と同じか、もう少し年下だ。身長も俺とかなり違うし、ひょろひょろしてて風に飛びそうだった。
これなら荒っぽくいったほうが、たぶん早いだろう。
「だから、誰に訊いた」
「うるせぇな。ここなら安く手に入るって訊いて、わざわざ役人街から来たんだ。
売るのか、売らねぇのか?」
睨みつけて脅す。
「金だったら、ちゃんとあるんだぜ」
言いながら用意してあった――というか、ルーフェイアのおふくろさんが無造作に渡してくれた――高額紙幣の束を、これ見よがしにちらつかせる。スラムじゃまずお目にかかれないような額だ。
もちろん俺みたいな子供が持ってるのも不自然といえば不自然だけど、「役人街」の一言が効いたのか、こいつは不審がらなかった。