Episode:81 追跡
◇Imad
「やれやれ、今晩は徹夜か?」
「どうだろ……」
裏通りで座りこみながら、俺らは目当てのヤツを待ってた。
ゼロールさんの話じゃ、この辺に例のファミリーとやらが絡んでる、ヤク売りのガキがよく来るらしい。
――ただ、毎晩じゃないってのがなぁ。
運が悪けりゃ、寒い思いしただけ損ってハメになる。
もっとも2・3日に1回は顔を見せるっていうから、そう長期戦にはならずに済みそうだった。
にしてもさっきといい今といい、どうも今夜は寒空に座りこむ機会に事欠かない。
しかも言い出しっぺのルーフェイアのお袋さんときたら、親父さんといっしょに、ちゃっちゃと消えちまいやがった。
「寒く……ないよね?」
無邪気に身体をくっつけながら、ルーフェイアのやつが訊いてくる。
「寒くねぇ寒くねぇ」
どうもこいつ、「抱き癖」がついてるらしい。
赤ん坊が母親に抱かれると安心して泣きやむのと一緒で、人にくっついてるのをやけに好む。さっきも何気にお袋さんに抱かれてたり、親父さんの膝の上にいる始末だ。
しかもその調子で俺にまでくっついてくるわけだから、かなりヤバい。
――そりゃまぁ、悪かねぇけど。
どっちにしてもこいつがお子様体型で、よかったってやつだろう。
とりあえず妙に嬉しそうなルーフェイアはおいといて、周囲の気配を探る。
通りは夜中とは思えないほど、人が出てやがった。しかもその大半が、俺らみたいなガキだ。
大方は俗に言うストリートキッズ、つまり宿無しだ。
あとは多分、家はあるけど悪さしてる不良たちか。
たむろってはしゃいでるやつらもいるし、ただ無言で座りこんでるやつらもいる。
中には、虚ろな目のヤツまでいやがった。
そのストリートにたびたび大人が紛れ込んで来ちゃ、適当な誰か――女子だけってわけじゃない――に札ビラ渡して連れてくのも、あたりまえみたいに繰り返される。
「まったく、誉めていいんだかどうだか」
「そうだね……」
俺がなんとなく言ったことに、意外にもルーフェイアは反論しなかった。
――そうだったっけな。
外見と性格とでつい忘れちまうけど、こいつはなにせ戦場育ちだ。
それも市街戦なんかまで経験して来てるから、かなり修羅場を見てるんだろう。
「やっぱり、戦争で両親が死んじゃったのかな……」
「それだけとは、限らねぇだろうけど。
――おい、もしかして来たんじゃねぇか?」
それまでとは通りの雰囲気が、微妙に変わる。
「え、どこ?」
「あー、お前にはこういうのは、分かんねぇか」
バトルにかけちゃ天下一品だけど、これはそれとはまったく違う。だから把握しづらいんだろう。
気配の流れる先に、視線をやる。ルーフェイアもそれには気づいたらしくて、同じほうへ視線を向けた。
「イマド、あれ……!」
「キマリだな」
どうみてもラリってるやつらが立ち上がったのを見て、確信する。クスリ売りとやらは、ぜったいこの先だ。
もう一回周囲の気配を探る。
――大丈夫そうだな。
実言えば万が一の時のために――そんなことがあるとは、ちょっと考えらんねぇけど――ガルシィさんやダグさんなんかが、手下連れて周囲にそれとなく張りこんでくれてる。
でも、用心に越した事はねぇだろう。