Episode:79
「でも、現場見たやつはいないって聞いてますけど? 証拠もないし」
「それなんだけどね」
何か知ってるらしくてレニーサさん、ちょっとだけ嘲って。
「どうもそのばら撒いてる人間、子供らしいのよ。エマンシオ・ファミリーが雇って、どこからか連れてきてるらしいの」
聞いた瞬間、それまで黙ってたあのジャーナリストが、はっと顔を上げたの。
「どうやらゼロール、あなた何か知ってるみたいね」
「見たことはないんだがな」
それから、この人がかいつまんで説明してくれて。
「俺は外のスラムも取材してるんだが、そこで話を聞いたんだ。
最近こっちのスラムの入り口で、クスリを売るバイトがあるらしい。けっこう実入りがいいうえ、上手くやればちょろまかせると、話してくれた子は言ってた」
「なるほどね……」
思わず納得。
このスラムでも入り口のほうは、けっこう人の出入りが多いの。役人街の不良なんかも来て、店で遊んだりしてる。だから他所から人が来てても、分かんなかったり。
しかも外のスラムの子は、元からけっこう来てるから、よけいに分からないし。
「でも、なんだって誰もチクらないだか?」
シーモアが不思議そうに言って。
「格安だからでしょうね。そんないい売り物、ここじゃ秘密にしておくものでしょ」
「あ、そっか……」
チクったらもちろん、クリアゾンのおじさんたちがすっ飛んでくわけで。でもヤク中の人は、ちょっとでも多くクスリが欲しいんだから、格安のクスリが消えたら困る。
だから誰もチクらなかった、ってことみたい。
「ともかく、その子供たちが売ってる麻薬の出所は、エマンシオ・ファミリーだと思うのよね」
「じゃぁ、その子を辿れば、何か分かるってわけだ」
がぜんみんな張り切っちゃって。
ただあたしはなんか、イマイチ張り切れなかったり。
「でも、どうやって辿るの?
上手くその子が見つかったって、もともとはファミリーと無関係なんでしょ?」
みんなに訊いてみたり。
「どうにかして、追加を取りに行かせる……とか?」
「どうだろうな。売り切りだったら、それはないぞ」
「あ、そっか……」
いい手が思い浮かばない。
そのとき、イマドが言ったの。
「思うんだけどよ、そのガキ、売り上げはぜったい持ってくんじゃねぇか?」
あっと思う。
クスリもらって商売して、そこから小遣いもらってるわけだから、売り上げを持ってかないワケがない。もしネコババでもしようもんなら、命がないし。
「追加を取りに行けばよし、行かなくても尾行すれば、ある程度の事は分かるな」
「だよね」
だいたい話がまとまってくる。
けど……。
「誰が行くの?」
訊いてみたの。
そういうクスリ売りじゃ、見張りがいるかもしれないし。それによっぽど上手に駆け引きしなくちゃだから、ちょっとやそっとじゃムリだろうし。
だけどあたしたちの仲間でそういうのができそうな人間、みんな顔割れちゃってる。
でもそのとき。
「イマド、あなた行きなさいよ」
あたしを含めてみんなで悩んでたら、ルーフェイアのお母さんがいきなりそう言ったの。