Episode:76
「――なんだってそんな連中、好きにさせてるんです?」
「イマド、あんたいきなりそれ訊くかい」
でもシーモアの言うとおり、度胸あるぅ。
いろいろニブい(ごめん!)ルーフェイアならともかく、イマドって基本的に、空気読むのは上手いもん。
なのにわざわざ訊くんだから、ホント肝が据わってるっていうか……。
「俺らここの育ちじゃねぇんだ。説明してもらわなきゃ、何もわかんねぇだろ」
「そりゃそうだけど」
それにしたって普通、こうは訊かないよね?
「ま、イマドの言うことにも一理あるね。
――ようするにその連中には、おいそれと手が出せないのさ」
「なんでだよ?」
シーモアの説明に、またイマドったら突っ込むし。
けどこうなると、全部話さないと納得しないかなぁ?
「いいわ、あたしから説明するから。
どうせボウヤたちだけじゃなくて、カレアナも訊きたいんでしょうし」
「あら、よく分かったわねぇ♪」
ルーフェイアのお母さんたら、妙に嬉そう。
けど、このお母さんも不思議。いい加減なのに、妙に隙がなくって。
まぁ娘のルーフェイアもなにをどうやったのか滅法強かったりだから、納得といえば納得なんだけど……。
「ファミリーが新参者だっていうのは、さっき聞いたわよね?」
「あ、はい」
「ええ」
お父さんの膝に抱っこ(!)されながら、でもルーフェイア、ちゃんと話は聞いてたみたい。レニーサさんの質問に、イマドと一緒に返事してるもん。
「その連中がね、ここへ足がかり掴むのにサツを利用したのよ」
「利用……?」
イマドとお母さんはピンときたみたいだけど、ルーフェイアの方は首をかしげてる。
それにしてもどうして彼女、ここまでピュアなのかなぁ?
あの強さと比べると、ものすごくアンバランス。それになにより、すぐ泣いちゃうし。まぁ戦ってる最中は、絶対泣いたりしないんだけど。
「そうね、お嬢ちゃんたちには分かりづらいかしら?
つまりはね……」
レニーサさんが、あたしたちスラムの人間には当たり前のことを話し始めて。
当然といえば当然なんだけど、スラムの住人は昔っから、警察とは相性がよくないの。
けど向こうが本気でかかってくるのは、何かあった時だけ。普段スラムの中での話には、外へ被害が及ばない限り見て見ぬふり。
だからこのスラム、昔から犯罪集団の本拠地になってるのよね。
――いいか悪いかは、よくわかんないけど。
「ただね、だからこそみんな――ここじゃクリアゾンって呼ぶんだけど、ともかくここを大事にしてきたわけ」
そうそう♪
他所へ行けば無法者の集団だけど、「クリアゾン」のおじさんたち、このスラムの住人にとっては頼れる存在だもん。
「悪さするやつがいれば捕まえるし、サツが攻めてくれば食いとめてくれる。クスリも売っちゃいるけど、小さい子供には渡さないわ。
それにいくらかのお金払って頼んどけば、ヘンな客が来ても追い払ってくれるしね」
これもレニーサさんの言うとおり。
あのおじさんたちにちゃんと頼んでおけば、女の人がひとりでもお店切り盛りできるもん。ほかにもどうしようもないトラブルあったときとかも、きっちり代わりにカタつけてくれるし。
しかも別に報酬はナシ。
強いて言えばここの不文律を守ることと、何か頼まれた時に引き受けること……かな?
だから案外このスラムって安全だし、あのおじさんたちもここにいる限りはチクられるなんてこと、ないし。