Episode:70
「自分たちだけにしておけないのかしらね?」
「そこ、あたしも腑に落ちないのよ。それでいろいろ、探ってみたんだけど……やっぱり裏がありそうなのよね」
どうやら、思ってたより状況が複雑みたい。
「ただあの子たち、もともと仲は良くないのよ。というか、『悪い』って言ったほうが正解ね」
「なるほどね……まんまと乗せられたんだ」
確かに最初からチーム同士が仲が悪かった場合は、そこにいる人間はどうしたって無条件で相手を嫌うようになる。
で、みごとにそこを突かれた、ってことみたい。
――こういうの、人間の性癖、なのかしらね?
だいたいが戦争だって、誤情報に尾鰭がついて、敵国の人間を人扱い出来なくなっちゃうことも多いし。
しかもこれがどういうわけか、実際に戦争してる人間たちより銃後の人間に多く見られるから、世の中って不思議。
まぁ、見えない分簡単に誤解できるんだろうけど。
「実言えばね、あの2つのチームって昔はひとつだったのよ。だから余計何かと目の敵にする傾向があるの」
「跡目争い?」
「そう。
昔リーダーやってたディアスが抜けた後、真っ二つになったのよ」
「それで――」
これでようやく、ディアスがここへ来るはずだった人間を差し置いて、自分で来た理由が分かった。
「分裂自体はよくある話なの。だからディアスも、別に口出さなかったんでしょうね。
――もっともここを出た人間には、そういう発言権はなくなっちゃうんだけど」
レニーサが言うには、そういう暗黙の不文律があるんだとか。
けどそうだとすると、ディアスがここへ来たからって事態は変わんないような……?
とはいえ以前のリーダーが来れば後輩?たちも少しは考えるだろうし、気が変わるかもしれないし。
なによりディアス、あれで案外、面倒見はいいし義理堅い方。
「気になったんだ」
「多分、そうだと思うわ」
しん、と店の中が静まり返った。
ディアスがここでどんな暮らしをしてたのか、あたしも詳しくは知らなかったりする。
小さい頃にどこからかここへ流れついて子供を亡くした女性に拾われて、けどその女性も抗争に巻き込まれて亡くなって、その後はとある殺し専門のグループに入って……。
知ってるのはそれだけ。
それから彼、このスラムを抜けて傭兵になって、あたしはその頃出会った。
「――世の中って、不公平ね」
「え?」
つぶやいた言葉に、レニーサが訊き返してくる。
「ううん、なんとなく……そう思わない?」
「そうね、そう思う」
また店内が静まり返った。
何か分からない、やるせない憤り。
どうしてそう感じるのかもどこへぶつけていいのかも分からないけど、納得だけはしたくない。
そうしたら――なんか負けの気がするから。
だからあたし、わざと笑顔でレニーサに話しかけた。
「ゴメン、なんか湿っぽくなっちゃって。もっかい飲み直そうか?」
「そうね」
ここでこうしてたって、なにも始まらない。
変えたければ、自分が動いて変えなきゃいけない。
だから……。
「明日に乾杯、かしらね?」