Episode:60
「まさか、ルーフェイアってば寝ちゃってるの?」
「ああ。気持ち良さそうに熟睡してるな」
もっとも危険がせまりゃ、瞬時に目を覚まして太刀を構えるんだろうけど。
けどほかの連中は、違う意味に取ったらしい。
「おいっ、誰か来い!」
少し奥にいたリーダーの人が、慌てた調子で仲間を呼んでる。
「――? 何慌ててんです?」
「なにのんきなこと言ってるんだ! ほらっ、お嬢ちゃん!」
「あ、だめです、ンなことしたら……」
俺が言い終えるより早く、びくりと身をすくませてルーフェイアが目を覚ました。
その手が太刀を抜きかける。
「落ちつけ、ルーフェイア! シーモアたちだ!」
「え……? あ」
一瞬のタイムラグを置いて、ルーフェイアのやつが状況を理解した顔になった。
「――おはよう、シーモア」
思わずそこにいた全員が石化する。
「『おはよう』じゃねぇだろ……」
「え?」
こいつ珍しく熟睡しきってたせいか、どうも寝ぼけてたらしい。
「えっと……?」
「ルーフェイア、なんでもないのねっ?!」
「え? うん……」
血相変えてるシーモアたちと、ぼーっとしてるルーフェイアの対比がめちゃくちゃ笑えた。
「ったく何考えてんのさ!
ここはケンディクじゃないんだ。この時期に外で寝てたりしたら、凍死するっての!」
「凍死……? あったかかったけど……?」
――あ、それで慌ててたのか。
もっとも気温の割に、こいつはぬくぬくしてたけど。
その上俺にくっついたりしたもんだから、ついそのまま眠り込んだってとこだろう。
「あぁもう、ったくわかってんのかい!」
「分かってねぇって」
ボケてるルーフェイアと言い、分かってないシーモアとナティエスと言い、もう笑うしかない。
そこへゼロールさんに付き添われて、ウィンが戻ってきた。
「あれっ、みんな廊下でなにしてんの?」
「あ、ウィン」
わけがわからないって顔してるウィンに、シーモアのやつが事情を説明する。
「それで入れずにいたら、この通りストライキしてくれたってわけさ」
「ストライキって……ねぇちゃんたち、オイラのこと言わなかったのかい?」
マヌケだといわんばかりの顔をこいつがする。
「言ったぜ。でも信じてくれなくてな」
「――マジ?」
「じゃなきゃ、こんなとこいるかよ」
はっきり言って、俺はこんな寒い場所より部屋の中がいい。
「んじゃもしかして、みんなが信じなかったとか?」
「だからそう言ったぞ」
「ひっで〜!」
ウィンのヤツが素っ頓狂な声をあげた。
「ったく、ウルサイね。もう暗いってのにデカイ声で騒ぐんじゃないよ」
「そゆ問題じゃないだろ?!
だいたいオイラ――」
こいつが事の顛末を話して、みんなの顔色が変わった。
「そりゃ、ほんとなのか?」
「ホントだよ。だいいちこんなことでウソ言ったって、オイラちっとも得しないじゃん」
言いながらウィンが、巻かれた包帯を見せる。
「こりゃひどいね」
「でも、あんまし痛くないんだ。お医者さんもさ、手当てがよかったって言ってたし。
――ねぇちゃん、ありがと」
「ううん。よかったね」
ルーフェイアのヤツは締め出されてたことも忘れて、にこにこ顔だ。
「ともかく、中入ろうよ。スープとかもまだ、ちゃんと残ってるから」
――へぇ、ナティエスの手料理か。
こいつはルーフェイアと違って、こういうのはけっこう上手い。どっちにしても今晩は、手っ取り早く夕食にありつけそうだ。
ってそう言えば、ジャスおばさんちの夕食どうなったんだろうな……?