Episode:58 交渉
◇Imad
「開かない……ね」
「ああ」
ともかくここまで来たものの、シーモアたちのアジト?の扉は開きそうになかった。
――カギ、強引に開けてやろうか。
思わずそんなこと思っちまう。
けどルーフェイアのほうは律儀に、また呼び鈴を鳴らした。
何度か間を置きながらの5回目くらいで、さすがにドア越しに声が返ってくる。
「帰れ」
「その、ウィンが……ケガをしたんです」
ぶっきらぼうな言葉にも負けず、こいつが必死に訴えたけど、返事はにべもなかった。
「見え透いた嘘言うんじゃねぇ。帰れ」
「嘘じゃないです! だってウィン、こちらへ、戻ってない……ですよね?」
どうにかしなきゃって思いがあるんだろう、こいつも引き下がらない。
「寄り道するから遅くなるって、連絡あったからな。
さ、帰ってくれ」
それっきり声は聞こえなくなった。
「まるっきり俺らに会うつもり、ねぇみてぇだな」
「そうだね……」
ルーフェイアのやつが、困り果てた表情になる。
中にはちゃんと人がいる。その辺はルーフェイアのヤツだって、十分気配を捉えてるはずだ。俺なんかは、誰がいるかまできっちり分かるし。
ついでに中の連中の感情まで見事に伝わってくるから、向こうさんが何考えてるかまで筒抜けに近い。
「どうする、ルーフェイア。一旦戻っか?」
こいつが黙った。他のみんながやってることと引き比べて、自分がどうするか考えこんでるらしい。
ただ今回は珍しく、悩んでる時間が短かった。
「――待つわ」
「そう言うと思ったぜ」
じつ言えば最初っから、こう来るだろうと予想はしてた。
なんせルーフェイアだ。
こいつは人のこととなると、諦めるって言葉を知らない。
「んじゃこの辺で待つか?」
「この辺でって……イマド、先に帰ってて。寒いの……嫌いでしょ?」
座りこもうとした俺に、こいつがそう言ってきた。
「バカ言え。お前だけ置いて帰れっかよ。
だいいちンなことした日にゃ、お前の親父に何されっか、わかんねぇだろ」
なんにも言いやしなかったけど、あの親父さんルーフェイアになんかあったりしたら、間違いなく関係者皆殺しってやつだ。
「それは……そうだけど……」
さすが娘なだけあって、こいつも親のことはよく分かってるらしい。
「それに俺だって、帰ってもすることねぇしな。
てかお前こそ、そんな薄着で大丈夫なのか?」
「あ、うん、大丈夫。あたしのは冬用の戦闘服だから」
――なるほど。
今まで見てて、ルーフェイアのやつはだいたいが寒さに強い。
そこへ戦闘集団だって言う実家??で使う、戦闘服着てちゃ、寒いなんてこたぁないだろう。
「ごめん……つきあわせちゃって」
「だからいいって」
いつものやりとりしながら、結局2人で座りこむ。
――って、ちょっと待てっ!
何を思ったのかルーフェイアのやつが、俺にくっついてきやがった。