Episode:56
「なんだい?」
「忙しいとこ悪いんだけど、うちの娘のルーフェイア、お邪魔してないかしら?」
「あ、あの子の親御さんかい。
いや、あの子にはすっかり世話になっちまってねぇ。ほんとだったら……」
――長くなりそう。
しょうがないからこっちで遮る。
「ごめんなさい、あの子、いるのかしら?」
時間のある時だったら、いくらだって井戸端会議に付き合うんだけど。
「あ、すまないね。
それがあの子たち、うちの息子と一緒に飛び出しちまったんだよ。知ってる子が危ないとか言ってさ」
「そう……」
あの子「たち」って言うからには、イマドも一緒ってわけね。
あれで案外、ルーフェイアって鉄砲玉。特に何か人が危ないって言うと、それが片付くまではなし崩しに関わっちゃう子だし。
「まぁ待ってりゃそのうち戻るだろうから、上がっていきなよ」
「ごめんなさい、そうもいかなそう。
もしうちの子がここへ戻ってきたら、あたしが来たって伝えてくれるかしら?」
「そうかい? じゃぁそう伝えるよ」
世話好きらしいこの人が、ちょっと残念そうな顔になる。
「落ちついたら、親子で寄らせてもらうわね」
ジャスさんにはそう言って、この部屋を後にした。
「さ、レード、どっか心当たり思い出してちょうだい」
「そんなムチャな……」
「つべこべ言わないの。ここは詳しいんでしょ。
だいいち最初なんて、『手下に探させる』なんて勇ましいこと言ってたじゃない」
「なんでンなこと、覚えてるんすか……」
失礼ね。
あたしこれでも、記憶力は悪くないんだから。
「ともかくそう言ったからには、責任取りなさいね。はい、急いで急いで」
「だからムチャですよぉ。
――時間もらえるんなら、絶対探し出してみせますけど」
「あらそうなの?」
今度は彼、けっこう自信ありげ。
「そりゃ間違いないですって。だから時間もらえませんかね?」
「それならあげてもいいけど……ここで待つのはヤよ」
何が悲しくて、こんな寒空の下で待たなきゃいけないんだか。
「そりゃまぁ……んじゃ、知り合いの店でいいスか?」
「ヘンなとこじゃないでしょうね?」
思わず勘ぐったりして。
――もっともそうなら、営業できないようにするだけだけどね。
「いや、感じのいいバーですから。
ね、カレアナの姐さん、それで手うってくれませんか?」
「そうねぇ……」
ちょっと考えこんでみせる。
やたら不安そうなレードの面白いことったら。
「姐さん、頼みますよぉ」
「じゃぁこうしましょ。あたしの飲み代をあなたがおごる、これでどぉ?」
「オニ……」
もちろんこの呟き、聞き逃したりなんてしない。
「あら、そんなこと言うんだ?
じゃぁうちの娘に手を出してくれた分、命で払ってもらってもいいのよ?」
「わ、分かりました分かりました、それでいいっす!」
で、商談成立♪
案内してくれるレードにくっついて、そのバーとやらへ向かう。
――久々に、美味しいお酒が飲めそうだわ。