Episode:55
「その、そこの近くに住む家族が借金返してきませんで、俺が取りたてに行ったってワケで」
「ふぅん」
ここじゃよくある話なんだろうけど。
でもそんなに必死に取りたてなくたって、自分が困るわけじゃないのにねぇ?
「そしたら娘さんが割って入って、代わりに払ってくださったんです」
すっかり子分みたいな調子で、この男が弁解する。
――やっぱりみっともないわ。
もっとも嘘ついたまま知らん顔してるってのも、腹立つんだけど。
「あ、ここいらあたりです」
割合広めの路地で、レードが立ち止まった。
「いないじゃない」
「そりゃそうスよ。もう何時間も前の話ですから」
「それじゃ話にならないでしょ。どこ行ったか聞いてらっしゃい」
「はぁ……」
彼が渋る。
「あら、いいわよ。じゃぁお金払わないもの」
「そ、それだけは勘弁してください! んなことになったら、社長になんて言われるか……」
――根性なし。
ここまで情けないと、もう形容詞がなくなってくるわ。
「はいはい、分かったらさっさと聞いてくるの。10分以内に帰ってこないと、あと知らないわよ」
「ひぇぇ……」
なんだかぼやきながら、それでも彼が聞きに行った。
で、立って待ってるのも面倒だから、その辺の階段に座りこんじゃう。
けどせっかく座ってたら、家の人が帰ってきちゃうし。
「ちょいとあんた、うちの玄関の前に座って、何か用かい?」
「あらごめんなさい。ちょっと人探してて、疲れたもんだから。
そうだ、うちの子見なかった? 金髪に碧い瞳の可愛い女の子で、太刀持ってるんだけど」
このおばさんが、まじまじとあたしの顔を見る。
――あんまり美人だから、見惚れたかしら?
「ふぅん……なるほどね、あんたがあの子の親かい。確かに、言われてみれば似てるかね」
「でしょでしょ♪」
なんたってあたしの自慢の娘だもの。
でもあの子目立つから、やっぱりちゃんと見られてたみたいね。
「それで、どこへ行ったか分かる?」
「昼間のあの子がそうなら、ジャスんとこに上がりこんだよ。なんだか泣いてたっけね」
あらま。何で泣いたか知らないけど、ちょっと見たかったなぁ。
でもとりあえずはあの子探さないと、見るも見ないもないわけで。
「そしたらそのお宅、どこかしら?」
「そこのアパートの、2階のいちばん奥だよ」
「ありがと、助かったわ♪ あ、これ、少ないけど取っといて。娘見つけてくれたお礼よ」
そんなやりとりしてたら、レードが戻ってきた。
「お嬢さんの居場所、わかりましたぜ」
「ジャスさんって方のお宅に、上がりこんだみたいね」
「なんで知ってるんです……」
可笑しくなるくらい、レードががっかり肩を落とす。
「ま、人徳ね。行きましょ」
何か言いたそうな彼は無視して、あたしは教えられた部屋のドアを叩いた。
中からまさに「お袋さん」って感じの人が顔を出す。