Episode:54
「な……」
――ふふ、慌ててるわね。
こっちも無造作に片手で構えてるだけだけど、この男自分がそこそこ出来るだけあって、すくみ上がってる。
「あたしね、嘘はキライなのよ」
会ったんなら会ったってちゃんと言ってくれれば、考えなくもなかったんだけどね。
「い、いや、そりゃ確かに……けど、あんたの言ってる子かどうか分からんし……」
「金髪碧眼の太刀持った美少女で、通りすがりのもめごとに頭突っ込んで、挙句に借金をいきなり肩代わりするような子は、あたしの娘くらいよ」
「む、娘っ!」
あらなによ。
あたしに娘がいちゃ、おかしいみたいな言い方じゃない。
「ともかく会った場所まで案内してもらうわ。
それとそうね、他にも何か役に立ってくれたら、命だけは助けてあげる」
「ひでぇ……」
チンピラ束ねてる割には情けない声、この男ってば出すし。
やっぱり前言撤回、失格だわ。
「あら、別にいいのよ。別にここで殺してあげたって。
嘘ついたんだもの、そのくらいしてもいいわよねぇ?」
そう言って、頬に紅い線を引いてあげる。
「あたしのお願い、聞いてくれるかしら?」
「……は、はい」
「よろしい」
とりあえずこの男を連れてれば、ヘンなのに煩わされることも、なさそうだしね♪
――あ、そうだっと。
「そうそう、うちの娘があなたに渡した紅玉、返してもらえるかしら?」
こういったらこの男、子供みたいに泣き出しそうな顔になっちゃった。
「別にタダでとは言わないわ。ちゃんとその分は払うわよ。
7000ルルシ……だったわよね?」
あのねぇ、露骨にほっとした顔しないの。情けないったらありゃしない。
「さ、出してもらえる?」
「これです……」
内ポケットから男が、指先ほどもある紅玉を出して見せた。
受けとってよく眺める。
「本物みたいね」
この紅玉、あの子けっこう気に入ってたのよね。
にしてもいくら人のためだとは言え、それをあっさり差し出しちゃうんだから、あの子ったらたいしたもんだわね。
「あの、すいません、お金は……」
「あのねぇ、何言ってるのよ。ちゃんと案内してから。いいわね?」
「げ……」
なんだかカエルが絞め殺されたみたいな声。
「もう、さっきから情けない声出して、みっともないわよ。
ところであなた、名前は?」
さすがに名前がわかんないと、不便だし。
「え? あ、レードって言いますが……」
「あ、そ。あたしはカレアナ。呼び捨てで構わないから。
さ、どっち?」
レードとか言うチンピラを先に立たせて、歩き出す。
場所は、ここからそんなには遠くないんだそう。