Episode:50
ふわりと通りの右から出てきた男が、隠すようにして短剣を構えているのが、なぜか分かった。
魔法でどうにかしたいけれど、それが出来ない。通常魔法は指向性がないから、これだけ2人の距離が近いと、間違いなくウィンまで巻き添えになってしまう。
男が動く。
短剣が振り上げられた。
「ウィンっ!」
とっさに突っ込んで、男に体当たりする。
「痛ってぇ!」
切っ先がウィンの腕をかすめたけれど、それだけで済んだ。
けど別の男が出てきて、またウィンへと刃を向ける。
「ウィン、動けるんなら逃げてっ!」
振り下ろされる剣を、鞘にはいったままの太刀で受けとめて、牽制に軽く炎魔法を放った。
顔面に熱を受けて男が怯む。
「ね、ねぇちゃん?!」
――いけない!
ウィンの後ろに、もうひとり。
やむを得ず、小太刀のほうを抜いて投げつける。刃が宙を飛んで、狙いたがわずその男の首に突き立った。
この隙にあの子が上手く逃げてくれれば……。
「ウィンっ、早くっ!」
だけどウィンはすくんでしまったのか逃げようとせず、最初に体当たりして体勢を崩させた男が、またこの子を狙う。
しかもあたしの後ろからも、別の男が切りかかってきた。
「命の穂刈りし乙女たちよ、その者に安らかなる慈悲を乞う――グリム・エンブレイスっ!」
あたしへ来た男には呪文を唱えておいて――抵抗しきったにしても、すこしは時間が稼げる――ウィンのほうへ向かう。
「ウィンっ!!」
「うわぁっ!」
ようやく事態に気が付いて、逃げようとしたこの子の肩が、ざくりと切れた。
倒れたウィンにとどめを刺そうと、男が短剣を翳す。
――させないっ!
大きく踏みこみながら、男の腕めがけて太刀を振り上げる。
でも刃が達する前に、男がくずおれた。男が持っていた短剣が石畳に落ちて、乾いた音を立てる。
背に、ナイフが突き立っていた。
残る男たちも、ひとりは死の呪文で、もうひとりはあたしの小太刀で絶命している。
あたし、また……。
「ルーフェイアっ!」
そこへやっと――と言っても最初から数えてもほんのわずか――イマドが来る。
「大丈夫か?」
「うん。片付いたわ。
――ウィン、大丈夫?」
たぶんさほどではないと思うけれど、心配だった。
「ちきしょ〜、いてぇ……」
痛がるウィンに急いで駆け寄って、傷を診る。
――よかった。
逃げようとしていて、まともに切られなかったのがよかったのか、命に関わるような傷じゃない。