Episode:47
「すみません……」
「気にすんなって。こっちも濡れ衣着せたしな」
「あ!」
お兄さんが言った『濡れ衣』で思い出す。
「ゼロールさん、さっきの話……」
「ああ、そうだったな」
そういえば、と言う調子でゼロールさんが顔をあげた。
――まさかとは思うけど、忘れてたんだろうか?
「ダグくん、これは何度か君のところを訪ねたのと、関係あるんだが……」
一瞬覚えてないんじゃないかと不安になったけど、ゼロールさんは無事話し出す。
「どうも今回の子供殺しの件、裏がありそうな気がするんだ」
「ハッ。言うに事欠いてそれとはな。
ウラもなにも、あいつの傍には連中が使ってるナイフが落ちてた。それに見てたやつだっているんだぜ?」
「その目撃者が誰かは知らないが……本当に見たのかい?」
ゼロールさんの言葉に、思わずイマドと顔を見合わせる。
「――どういう意味だよ」
ダグさんも同じことを思ったみたいで、鋭い声で訊き返した。
「例えば、なんだがね。
その目撃者が、嘘を言ってたとしたら?」
「嘘……?」
みんなの困惑を無視して、ゼロールさんが続ける。
「たまたま現場近くで寝てたっていう、ホームレスから俺が聞き出したのじゃ、君のところの子供を殺ったのは、中年の男なんだそうだ。
ただ報復が怖くて、人には言えなかった――そう言ってたよ」
「信じらんねぇな」
ダグさんが一蹴した。
確かに「聞いた」という以外に、なんの証拠も無いから、そう言われても仕方がないだろう。
――けど、いったいどれが本当なんだろう?
シーモアたちは、『縄張り争いの腹いせに殺された』と言った。
だけど疑われてるダグさんの方も、誰か子供が殺されてるらしい。そして、シーモアたちの仲間がやったと思っている。
しかもゼロールさんは、ぜんぜん関係ない第三者がやったと言っていて……。
ここまで状況が揃うと、なんとなくゼロールさんの話が正しそうだ。けどそうすると今度は、「どうして」というのが分からなくなる。
「すいません、ヘンなこと聞きますけど……今まで何人殺されたんです?」
やっぱり腑に落ちないような顔をしながら、イマドが訊いた。
「人数か?
幸いひとりだけだ。たまたま、ひとりで出てったとこを……」
「あっ!」
はっとして大きな声をあげてしまったあたしに、みんなの視線が集まる。
「どうした?
――そうか、まずいな。行くぞ!」
それ以上あたしが言わないうちに、意味を悟ったイマドが、武器を手に立ち上がった。