Episode:45
「お前ら、連中の回しモンかっ! 人んちあがりこみやがって、ぶっ殺してやるぜ」
室内に緊張が走る。
けどどうかなるより早く、おばさんが怒鳴りつけた。
「こらっ、帰ってくるなり何考えてんだい! この家のなかで、そんな騒ぎは許さないよ!」
言いながらおばさん、容赦なく男の人の頭を殴る。
「ってぇなぁ! けどそう言うけどお袋、もしこいつが連中の殺し屋だったら、どうするんだ」
「んなわけないだろ。もしこの子たちがその気なら、とっくに殺されてるさ」
信じられない言葉が飛び交う親子喧嘩に、呆然とするしかなかった。
「ごめんね。うちのアニキ、ちょっとイカれちゃっててさ」
あたしのようすに気付いたのか、オリアというお姉さんが話しかけてくる。
「グループのアタマって気取ってるけど、ようは悪さばっかり。
こっちは迷惑でしょうがないよ」
何も返せなかった。
兄弟や家族っていうのは、もっと違うものだと思ってたのに……。
「ほらアニキ、いい加減にしなよ。この子がびっくりしてるじゃないのさ」
「オリア、お前まで甘っちょろいこと……」
「なに言ってんだよ、どうかしてるのはアニキだろ。この子に手ぇ出したら、俺だって黙っちゃいないからな」
「ベック、さては惚れたか?」
計10人もの家族――赤ちゃんまでが泣き出してしまった――が騒ぎ始めて、なにがなんだか分からなくなってくる。
「イマド、どうしよう……」
「ほっとけよ。そのうちどうにかなるって」
相変わらずイマドはマイペースだ。
「なんだ、ずいぶん騒がしくなったな」
奥の部屋からひょこっと、ゼロールさんが顔を出す。
「あの、ゼロールさん、止めてください!」
「放っておけば、そのうち止まるんじゃないか?」
「………」
イマドとまるっきり同じことを言う。
でも2人の言葉通り、数分もしないうちに、丸く?収まったようだった。
「分かったね。あんたがバカやってほっつきあるってる間に、この子が借金立て替えてくれたんだ。
ちゃんとお礼でも言いな!」
おばさんが一喝する。
「そりゃどうも。
けどホントに、連中の回しモンじゃねぇんだな」
「ダチですけどね」
お兄さんの言葉に、さらりとイマドが答える。
「――ダチ? 誰のだ」
「それは言えません。言ったらそいつら、どうなるか分かりませんから」
また雰囲気が険悪になる。
「そんなに信用できねぇんなら、さっさと出てったらどうだ」
「はいはい、そこまで」
どうしたらいいか困っていると、ゼロールさんがのんびりした調子で、間に入ってくれた。
「ダグくん、そんなじゃ女の子にモテないぞ」
「るせぇな!
って、なんであんたまでいるんだ!」
どうやらゼロールさん、この男の人と顔見知りだったらしい。