Episode:43
「えっと……ルーフェイア=グレイスです。それといま……向こうで料理してるのが、イマドです」
「へぇ、ルーフェイアか。なんかいい名前じゃん。
俺はベック。それからカーツにエバンにショーンにドレアにマリ、あとあっちの赤ん坊がアニタで、向こうの姉貴が……」
一瞬で混乱する。
「ごめんなさい、もう1回……」
そうは言ったけれど、もう1回訊いても覚えられる自信はなかった。
「あ、わりぃわりぃ。覚えられるわきゃねぇよな。とりあえず俺がベックな」
「あたしショーン!
おねえちゃん、こっちも教えて!」
綺麗な亜麻色の髪をした女の子が、勢い良く声を上げる。
「算数? ちょっと自信ないけど……」
けど幸い問題を見てみると、教えて上げられそうだった。
「これは、ここをこうすれば……」
「そっかぁ。おねぇちゃんすごい〜」
「そんなこと、ないわ。習ったところだもの」
そうしているうちに、次々と声がかかる。
「ねぇねぇ、こっちも教えて!」
「これ? これは……こういう風に線を引けばわかるでしょ?」
「僕も教えて〜!」
「ごめんね、ちょっと待って」
声をかけられるのは嬉しいけれど、そんなに一度には見られない。
「順番にみてあげるから……」
どう説明したらいいか考えながら、ひとつひとつ宿題に付き合った。
自分に兄弟がいないせいか、こんな風にまとわりつかれるのが、とても楽しい。
「なんだ、ずいぶん馴染んだじゃねぇか」
一段落したのか、イマドとゼロールさんが戻ってきた。
「もう、終わったの?」
「ああ、下ごしらえは終わったかんな。あとは直前で間に合うし。
――お、懐かしい問題やってるじゃねぇか」
イマドも一緒に宿題を見始めた。苦手な理系を任せられるから、これだとずいぶん楽だ。
ちなみにゼロールさんは、今度は仕事部屋へ逃げて行ってしまった。
「やたっ、今日は早く終わった! お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがと!」
「あたしもおわり♪ どうもありがと」
「どういたしまして」
いちどに倍の人数が見られるようになったおかげで、ほどなくみんなの宿題が片付き始める。
「今日はかあちゃんに怒られなくて済みそうだぜ」
「――何が怒られないんだい?」
できあがった仕事を納めに行っていたおばさんも、戻ってきた。
「おかえりなさ〜い」
「あ、おかえりっ!
かあちゃん、宿題終わったから遊んでていいだろ!」
「ホントかい?」
半信半疑のおばさんに、ベックさんに続いて、小さい子たちもノートを見せた。