Episode:42
「その、どんな……?」
「双方のチームの子供がそれぞれ殺されてるんだが、それをやったのが中年の男性だって話でね。
でもどっちのチームにも、せいぜい20歳前後までしかいないんだよ」
「え?」
どちらのチームにも該当者がいないのなら、その中年男性は、全く関係ない人ということになる。
「それじゃ、さっき聞いた『縄張り争いの腹いせ』っていうのは……?」
「まぁシマ争い自体はあったんだろうけどね。
ただ子供が――あ、すまない」
話の途中でゼロールさんが立ち上がって、ここの家の子に席を譲った。
「お姉ちゃんも、ちょっといい?」
「ごめんね」
慌ててあたしもソファから立ち上がる。
どいた後へはここの子たち――あたしより年上の人もいる――が数人、教科書とノートを広げて座りこんで、話が打ち切りになった。
「宿題……?」
「ああ」
後ろから見てみると、歴史だった。
――あ、この問題。
シュマーの人間が絡んだ戦争だから、かなり詳しく聞かされるところだ。
けどあたしよりは2つくらい上の男の子は、歴史が苦手みたいで考えこんでいる。
「そうだ、おじさん教えてくれよ」
「へ? 俺?
ダメっ、俺はダメ! 勉強は苦手だ!」
ゼロールさんはそう言いながら、台所へ逃げて行ってしまった。
「ちぇっ、頼りないおっさんだな。しゃぁねぇ、適当に書いとくか」
舌打ちしながらこの人が、ペンを握りなおす。
けどこれじゃ、ぜんぜん違う答え……。
差し出がましいとは思ったけれど、横から話しかける。
「あの……この年代はこの事件があったから、これに繋がる話を選べば……」
「え? あ、そうか。
けど待てよ、お前、俺より年下だよな?」
「あ、はい。たぶん……」
多分というか、間違いなくあたしのほうが年下だろう。
「それでもう、こんなの分かるのか」
「いえ、行ってる学校がペース早くて……だから……」
まさか家が傭兵集団だから歴史に詳しいとは言えなくて、そう言い訳する。
ただこの言い訳も嘘じゃなかった。
学院は英才教育で知られている。当然学科の進度も早くて、あたしたちの学年でも一般校に比べて2年は進んでいた。
「ふぅん。凄いとこもあるんだな。
そしたらこっちは分かるか?」
「すみません、数学はちょっと……」
数学は授業についていくだけで精一杯で、その先まではとても分からない。
「そっか、お前も苦手なんだ。んじゃ頑張って解くしかねぇな。
――ってお前、名前は?」
「え、あ! すみません、家へ上がらせていただいてるのに、名乗ってもいなくて」
成り行き任せの済し崩しで、自己紹介さえしていないのを思い出す。