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Episode:41

「そうかい。じゃぁ夜まで待ってもらうよ。ただ、狭いのはガマンしとくれ」

「すみません。ありがとうございます」

 結局この家に、しばらくいさせてもらうことにする。


「そうそう、それとあたしはお陰で一通り仕事が片付いたんでね、ちょっと納めてくるよ。

 何かわかんなかったら、オリアにでも訊いとくれ」

「あ、はい」

 おばさんが箱を抱えて出ていく。


 イマドはもうしっかり台所を占拠していて、居間と向こうとを、行ったり来たりしていた。どうも特技を生かして、今度は夕食に取りかかってるらしい。

 ウィンはウィンで、たちまちこの家の子たちと仲良くなって、一緒に遊んでいる。


 ただあたしのほうは、居場所がなかった。

 イマドのように家事ができるわけでもないし、もちろんおばさんたちの仕事も手伝えない。


――あたしって、ダメだな。


 落ちこみながら、丁寧に繕ってあるソファの隅に座りこむ。

 けど、この家の人たちを見ているのは楽しかった。

 狭い部屋にひしめく子供たちが、喧嘩をしたり笑い転げたりしている。


 羨ましかった。

 あたしは一人っ子で、あとは年の離れた従兄姉しかいない。その上戦場で育ってしまったから、こんな経験はしたことがなかった。

 と、隣にゼロールさんが来た。


「あんたの連れ、変わってるな。またメシ作ってる」

「イマド、家事が上手ですから」

「――なんだそりゃ?」


 なんだって言われても……。

 上手く答えられなくて、あたしは黙ってしまった。

 会話が続かない。


――どうしよう。

 なにか話さなければいけない気がして、必死に話題を探す。

 そして、思い出した。


「ゼロールさん、さっき確か……話があるって、仰ってませんでしたか?」

「ん? あ、あの話か」

 あたしに言われて初めて、ゼロールさんは思い出したみたいだった。


「よろしければ、教えてもらえませんか?」

「ああ。さて、どこから話すかな……」

 快くゼロールさんが、承諾してくれる。


「明日ここの連中が言う『祭り』――つまりは抗争なんだが、それがあるのは知ってるだろう?」

「はい」

 知らないわけがなかった。

 それがあるからこそ、シーモアたちもあたしたちも、ここへ来たのだから。


「俺はずっと、このスラムを取材してるんだ。なにせ同じシティに住んでながら、スラムの外の人間は、ここをないものとして扱ってるからね」

「そうなんですか……?」

 あたしはベルデナードには、時々ホテルを使って滞在した程度だから、そのあたりの事情は全く知らなかった。


「自分の汚いとこを見せつけられるみたいで、嫌なんだろうな。

 ともかく俺は、そんなのがまた嫌で、何年もここを取材してるんだ」

 そのせいで、所属していた新聞社を辞めさせられて、今はフリーなんだという。


「だからこの抗争の話も、わりと早くから耳にはしてたんだよ。

 で、すぐに聞き込んだりしてみてね」

 そこでゼロールさんは一回言葉を切った。


「そうしてるうちに、妙な話が聞こえてきたんだ」

「妙な話、ですか……?」

 わざわざこう言うからには、よほどなんだろうけど、見当がつかなかい。





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