Episode:36
「ひでぇなぁ。なにも泣かすことないだろうに」
「だから違うって言ってんだろ!
ったく、ほらあんた、ちょっとこっちへおいで!」
野次馬たちに騒がれて、さしものおばちゃんもキマリ悪くなったらしい。
「往来の真ん中で泣かれてちゃ、あたしが悪いみたいでたまんないじゃないか」
「おばちゃんが悪いんだろ?」
――ウィン、ナイス突っ込み。
おばちゃんが一瞬黙る。
「分かった、分かったよ。あたしが悪かった!
ともかくあんた、そのまま泣いてるわけにいかないだろ。とりあえずうち来て、落ちついてからお帰り。いいね?」
俺がさして口を差し挟まないうちに、狙いどおりの方向へ事態が転がった。
「さ、おいで」
「あ、はい……」
言われてまだ泣いてるものの、ルーフェイアのやつが素直にうなずく。
おばちゃんがルーフェイアの腕を掴んで歩き出して、オリアと呼ばれた女性――たぶん10代後半――がすぐ後ろからついていった。
「お、おい、話が違うぞ?」
ゼロールさんが慌てる。
まぁ俺らをどっかの店へ連れてって深刻な話するつもりだったわけだから、しょうがないんだろうけど。
「俺はあいつと一緒にいます。それにこのほうが、早く事態が片付きますから」
「――? どういうことだ?」
「知りたかったら、一緒に来たらどうです?」
俺の言葉に一瞬だけこの人は考えて、ついてきた。いくらか距離のあいたルーフェイアたちを、追いかける。
おばちゃんの家とやらはすぐそこだった。半分壊れかけたアパートの、3階のすみっこだ。
気配を察したのか、隣近所のドアが開く。
「あんた、大丈夫だったのかい? 外で騒いでたみたいだけどさ」
「ああ、この子たちがちょいと助けてくれてね」
「ほらっ、預かってた子たち返すよ」
ぞろぞろとガキが出てきた。全部おばちゃんの子供らしい。
――って、ずいぶんいるな。
あのオリアって人もいれると、8人兄弟ってことになるだろう。
「狭くて悪いけどね。まぁ通りの真ん中よりマシだろうよ」
「すみません……」
まだ泣きながらルーフェイアのやつが謝る。
「いや……いいのさ」
不意におばちゃんのトーンが、もう一段下がった。
自宅のドアを開けて中を見てる。
「――そうだね。あんたが助けてくれなきゃ、サイアクこの部屋へだって戻れなかったんだ」
どうも戻ってきて事態を実感したらしい。
最初っから気がつけって気もするけど。
「さっきは頭に血が上ってたから、怒鳴りつけたりしたけど……お嬢ちゃん、ありがとう」
「いえ……」
ルーフェイアがやっと顔を上げた。