Episode:35
「すいません、気に障ったんなら謝ります。
ただこいつ、別にそういうつもりじゃないんですよ。性格なんです」
「性格?」
俺の言葉に、おばちゃんは訝しむような視線だ。
「人が困ってると見ると命懸けだろうがなんだろうが、後先考えずに飛びこんじゃうんですよ、こいつ」
「ホントだぜ! オイラがケンディクの駅で撃たれそうになった時も、ねぇちゃんたちが身体張って助けてくれたんだ。
あ、おばちゃん疑ってンな!」
「いや、あんたの言うこと疑ったりはしないけどさ……」
と言いつつ、どうも信じらんないらしい。
「だいいち今だって、ねぇちゃん命懸けで助けてくれたじゃないか!」
「そりゃ、まぁ……」
おばちゃんがだいぶ、トーンダウンしてくる。
――もっとも命懸けとは思えねぇけど。
けどここでそれ言って場をぶち壊すほど、俺も馬鹿じゃない。
「とりあえず、許してやってもらえませんか?」
どうやらこのおばちゃんが落ちついたらしいのを見て、そう切り出す。
しかもいいタイミングで、ルーフェイアのやつが予想通りのことを言った。
「イマド、いいの。あたしが……悪かったんだもの」
そう言うこいつの瞳から涙がこぼれる。
ただそれでも気丈に?向き直って、謝るのだけは忘れなかった。
「出過ぎたことをして……もうしわけありませんでした……」
「いや、その、わかりゃいいのさ」
泣きながらのルーフェイアの言葉には、さすがのおばちゃんもしどろもどろだ。
「あ、ねぇちゃん泣かした」
すかさずウィンが突っ込む。
「うるさいねっ!」
おばちゃん、ウィンを怒鳴りつけてから、泣いてるこいつの顔を覗きこんだ。
「――こっちもまぁ、いきなり怒鳴ったりして悪かったよ。
あぁもう、大きいナリしていつまで泣いてんだい!」
さっきまで怒ってたのはどこへやら、もともと世話好きらしいこのおばちゃん、完全に涙に引っかかってやがる。
――泣いてる美少女は強ぇな。
ある意味太刀振りまわすより、攻撃力ありそうだ。
「ご、ごめんなさい……」
「あやまることないだろ。ほら、こっちおいで。
まったく、これじゃうちのチビのほうがマシだよ。はい、涙拭いて!」
とはいえ泣くことに関しちゃ、筋金入りのルーフェイアだ。当然この程度じゃ泣きやまない。
必死に唇を噛んで泣くまいとはしてるけど、相変わらず涙がこぼれてる。
「やれやれ、ほんとに泣き虫だね。呆れたもんだ」
あ、俺知らねっと。
ここでこれ言うとどうなるか、おばちゃん分かってない。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
案の定ルーフェイアのヤツが、謝りながらもっと泣き出した。
しかもこの騒ぎに、一度散ってた野次馬が戻ってくる。
「なんでぇ、ジャス。助けてくれたお嬢ちゃん泣かしちまったのか?」
「べ、別に泣かせようと思って……」
「けど泣いてるぜ?」
こうなると分は完全にルーフェイアだ。
なにせこいつ、戦闘さえなければひたすら華奢で儚げ、ついでに泣いてる姿ときたら、かばわなきゃいけない気にさせられる。
――まぁ、例外もいるけどな。
でもここには幸い、その「例外」はいないし。