Episode:34
「もう、そんなのどうだっていいでしょ……」
ルーフェイアの方は、心底嫌そうな調子だ。なにせこいつ、自分の家をけっして好いちゃいない。
ともかくその辺は終わりにして、例の母娘の方へ向き直ろうとした時だ。
「ちょっと、あんたたち!」
――やっぱこう来たか。
俺としてはうまいこと丸く収めて、この母娘が持ってる「とびっきりの情報」をどうにかしたかったってのに、そうは問屋がおろさなかった。
「なんだい、何さまのつもりだい! あたしら確かに貧しいけどね、物乞いじゃないんだ!」
ルーフェイアのヤツがはっとした顔になる。
「まぁまぁまぁまぁ。とりあえずケガもなかったんだからいいじゃないか」
事態が分かってるんだか分かってないんだか、ゼロールさんがなだめた。
ただ、ムダだと思うんだよなぁ……。
「部外者は黙っといで!」
案の定一喝されて、この人が黙った。
――大人のくせにしょうがねぇな。
世の中頼りになるやつなんざ、案外いないもんだ。
で、そのままおばちゃんの独壇場になる。
「金持ちがここへ何しに来たかはしらないけどね、あたしらに恵んで、いい気になってるんじゃないよ!」
「ごっ、ごめんなさい!」
一方的に言いたてられて、ルーフェイアがまた謝った。
「なに謝ってんのさ! だいいち謝るってことはやっぱあたしらダシにして、自分に酔ってただけって証拠だろ」
「ごめんなさい……」
ルーフェイアがうつむいて、さらに謝る。
――しゃぁねぇな。
場を収めようと俺が口を開きかけた時だ。
「おばちゃん、みっともねぇぞ!」
意外にもウィンのやつが、この中年?女性に噛み付いた。
「みっともないとはなんだいウィン、あたしゃ間違ったことなんか言ってないよ!」
「うそつけっ!」
どうも知り合いらしいこの2人、親子もかくやって勢いでケンカを始めやがる。
「ウソとはなんだい、どこがウソだってのさ!」
「全部そうだろ!
なんだよ、自分の借金払ってもらってお礼も言わねぇし、だいいちねぇちゃんたちが来なかったら、どうなったと思ってんだよ!」
「それは……」
――へぇ。
ウィンのヤツ、けっこう言うな。
「あの騒ぎだもん、どうせ借金のカタに、そこのオリアねぇちゃん取られるとこだったんだろ。
なのになんだよ、お礼のひとつも言ったらどうだよ!」
「だからって金持ちの道楽なんぞに……」
「道楽なんかじゃないやっ!
このねぇちゃんたち、友達心配でわざわざケンディクからここまで来たんだかんな! それにオイラまで助けてくれたんだ!」
こいつがまくし立てた。
「ウィン、もう……いいの。あたしが、悪いんだから……」
「ねぇちゃん、ちっとも悪かないだろ!」
「でも……」
ルーフェイアはルーフェイアで、ひたすら自分が悪いと思ってるし。
ともかくこのままじゃ、収拾がつかねぇだろう。