Episode:32
「そ。なにせそいつら、借金しててね。
こっちだって商売だから、そーゆーヤツには別の形で払ってもらうしかないワケ」
「だからって、乱暴しなくても!」
「それは謝る。ケガの分は治療費も出すさ。
けどキマリはキマリ、借りたものは返さなくちゃな。それがダメなら差し押さえってのは、ちゃんと法律で決まってるんだ」
――こいつ、慣れてるな。
こう言われたら手の出しようがないの、ちゃんと知ってやがる。
力任せに押すだけの手下連中とは、さすがに器が違った。
「そういうわけだからお嬢ちゃんたち、帰ってもらえるかい?」
さすがにどうしたもんか考えあぐねる。
けどそれより早く、ルーフェイアのヤツが口を開いた。
「――いくらなの」
「は?」
突拍子もない台詞に、一瞬場に居合わせた人間――俺も――が全員黙る。
「だから、払えばいいんでしょう? いくらなの?」
「おいおい、冗談キツいぜ。お嬢ちゃんの小遣いで払えるような額じゃないんだ」
まぁ普通そう思うだろうな。
ただ相手が違う。
「――いくらか訊いてるの」
「んじゃ参考までに教えるけど、7千ルルシにもなるぞ?」
――そりゃまた溜めたな。
それだけの額があったら普通の家族なら、2ヶ月以上暮らせるだろう。
もっともこいつの場合、その程度じゃびくともしない。
「じゃぁ、これで足りるでしょう?」
いつもつけてるウエストポーチから無造作に取り出したのは、磨き上げられた紅玉だった。それも親指くらいの大きさの、どうみたってかなりの値打ちモンだ。
取りたて屋があんぐり口をあける。
「足りるの、足りないの」
「あのなルーフェイア、足りるどこじゃねぇって。これならお釣りが来るぞ」
分かってないこいつに、思わず俺は説明した。
「そうなの?」
「多分な」
やっぱり分かってねぇの。
けどこいつは分かってないなりに分かった?らしくて、男のほうに向き直った。
「これで清算してあげて。残りはそっちで……」
「――釣りはもらえよ」
また思わず突っ込んだ。
どうもこいつ、一般常識がない。というか、そもそも他人の借金を払おうって時点で、かなり常識外れだろう。
――けどなぁ。
こいつの場合、それ言ってもまぁムダだろうし。だいいちルーフェイアときたら、こういうことになると頑として言うこと聞きゃしない。
振り向くと予想外の展開に、当の親子が困惑しきってた。
「あんたたち……?」
「すいません。あいつ、そういうヤツなんで」
とりあえず、親子にそう説明する。
いいか悪いかは別として、これはルーフェイアにとっちゃ、ごくあたりまえの範疇に入る話だ。
なにせ人が困ってるのを見たが最後、息するのと同じ調子で助けに入るんだから、凄いとしか言いようがない。