Episode:31
「このやろう、ガキのクセして……」
けどあいつが怯む様子は当然なかった。
なんせルーフェイアときたら、戦場育ちだ。この程度のゴロツキなんかじゃ、腕慣らしにもならないだろう。
「お嬢ちゃん、そんな物騒なもん振りまわしたら、ケガするぜ」
「――」
ルーフェイアのやつが、無言でゴロツキを睨みつけた。
こいつ、守るものがあると性格が一変する。自分のことだとただ泣くだけなのに、他人のこととなると梃子でも動かなくなるからたいしたもんだ。
――ま、そこがいいんだけど。
とりあえず俺もただ見てるわけにゃいかねぇから、野次馬をかき分けてルーフェイアの隣に並ぶ。
って待てよ、この母娘……。
なんとなく読み取ってたなかから、とびっきりの情報を俺は拾い出した。
この2人、例の祭りとやらの話を知ってる。どうも知り合いが関係者らしい。
人が困ってると見境なく助けに行くルーフェイアの性格が、功を奏したってやつだ。
「ほう、お嬢ちゃんだけかと思ったら、いちおう彼氏づれかい。こりゃたいしたもんだな」
ゴロツキ連中が汚い笑いを浮かべたけど、幸いルーフェイアヤツは、意味が分かってない。
ともかく一歩も引こうとしないこいつに、連中のひとりが進み出た。
「さぁ、ケガしたくなかったらそこどきな」
俺らはまた無言だ。ってぇか、こんなやつらとは口もききたくない。
「ガキのくせにずいぶん生意気だな」
黙ってるのが気に入らなかったんだろう、ナイフをちらつかせた。
「そういうのは、少し『教育』してやらねぇとな」
「――ざけんな」
隙だらけでナイフを振りかぶったゴロツキに、俺は容赦なく下段から切りつけた。
がら空きだった脚を大きく切り裂かれて、男が転倒する。
「こっ、このヤロウ……!」
いきりたったゴロツキ連中が、一斉に武器を構えた。
周囲の野次馬が、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。
ルーフェイアが太刀を抜いた。
俺ももう一度剣を構える。
けど、それ以上の乱闘にはならなかった。
「おめぇら、ちょっと待て」
緊迫しているところへ、のんびりした声がかかる。
どっからともなく、また男がひとり出てきた。
――あ、こいつは少しマシか?
昔軍隊ででも鍛えられたのか、そこそこデキそうなヤツだ。
別段構えもせずにこっちへ来る。
「とりあえずお嬢ちゃんたち、こっちの話しも聞いてくれや」
妙に馴れ馴れしい。
しかも様子見で俺らが黙ってると、お構いなしに喋り出しやがった。
「お嬢ちゃんたちそいつらかばってるけど、なんでこうなったか教えてやっから。
――その親子な、金払ってねぇんだ」
「お金?」
金に困った経験なんぞないルーフェイアが、不思議そうに返す。