Episode:30
「なんか用です?」
「君たち、あそこの子たちと知り合いなのかい?」
俺たちは顔を見合わせた。
「そりゃオイラ、あそこに住んでるけどさ」
「あたしたちも確かに、友達ですけど……」
「でも、きっちり追い返されましたからね」
ウィンとルーフェイアの、言葉の後を引き継ぐ。ここでこんなやつに、関わり合いになるのはゴメンだ。
けどめんどくさいことに、向こうはそう思ってくれなかったらしい。
「俺はこういうものなんだがね――」
俺らにむけて名刺を差出す。
表には「フリージャーナリスト、ゼロール=アレイ」って書いてあった。
「すまないが、話をさせてくれないか?」
「だから俺らは……え?」
今この人、話を「聞かせて」じゃなくて「させて」って言ったよな?
とっさにこの人を真っ直ぐ見る。
焦りが伝わってきた
――なんかあるな。
原因は……例の祭りだ。
「どんな話なんです?」
「ここじゃまずいな。
スラムの外れに俺の知り合いの店があるから、そこまでいいかい?」
「わかりました」
一瞬どっかヤバい場所かと思ったけど、この人が行こうとしてるのは割合まともな店だ。
――場所がわかんねぇけど。
しょうがないから俺ら3人、ぞろぞろ後ろをくっついてく。
ただ結局その店へは、たどりつかなかった。
「やめとくれ、その子は関係ないだろっ!」
「黙れよ、このアマ。そう言うんだったら出すもん出せってんだ」
言い争う声が聞こえる。
気配を探ると、すぐ先の路地で2人の女性――親子らしい――が、数人の若いヤツに囲まれてるのがわかった。
まぁケンディクじゃともかく、このスラムだったらよくある風景だろう。
――っておい!
ほんの一瞬の間に、ルーフェイアが飛び出した。
真っ直ぐ声がした路地のほうへと駆け抜けて行く。
「ルーフェイア、待てっ!」
とはいえ、あいつが待つわきゃねぇけど。
それにしても、ルーフェイアのやつは足が速い。
すぐに追いかけたものの一瞬の差がものを言って、引き離されないようにするのが精一杯だ。
ほんの僅かに遅れて俺が路地へ飛び込んだときには、ルーフェイアは野次馬を潜り抜けて、男たちに向かって行ってやがった。
「何をしてるの!」
いいざま柄での鋭い突きを、若い女の人の腕を掴んでた、男の手首に食らわす。
痛めつけられて、思わず男が手を離した。
「下がってて!」
母娘を背後にかばうようにして、ルーフェイアが間に立ちはだかる。