Episode:29
◇Imad
背後で、アジトのドアが閉まる。けどそんなのはお構いなしに、中の様子が手に取るみたいに分かった。
――便利だな、これ。
一気に視界が広がった感じだ。
俺がいろいろ読めるのがルーフェイアにバレたあと、あいつはこの力について、知ってる事を話してくれた。
なんでもシュマーじゃ、この手の力をかなり上手く使ってるらしい。訓練して通話石の代わりにしたり、ふだんの情報収集に使ったりしてるっていう。
まぁよく考えてみりゃ、通話石自体がこの手の能力を真似たって言うから、ちゃんとやれば出来て当たり前だ。
あとほかにも日常的に、視力だの聴力だのと同じ感覚で、みんなふつうに利用してるんだとか。
トラブルの元にっきゃならない、気ばっか疲れるだけの能力だと思ってたけど、使いようってことだろう。
で、ルーフェイアの説明――当人使えねぇから的を射てなかったけど――もとに、試行錯誤の最中だった。
そして真っ先に出来るようになったのが、前からなんとなく出来てた、「読み」だ。
ただ、思ってたほどいいモンじゃなかった。下手にやると、周り人ぜんぶの考え事が聞こえちまって、頭がガンガンする。雑踏なんか完全にお手上げだ。
その上細かいことまでは分かんなかったり、低リターン高リスクときてる。
それでもさっきはガマンして、アジトの連中から、最低限の情報は拾い出せた。
「イマド……だいじょうぶ? なんか、辛そう」
まだにじむ涙拭きながら、ルーフェイアのヤツが言う。
「裏技で聞いてたら酔った」
「あ、それで……」
これだけで通じるから、ルーフェイアがこういうのが分かるヤツだったのは、本気で助かる。
「ねぇちゃんたち、ごめんよ。無駄足になっちゃってさ」
「いや、そうでもねぇよ」
すまながるウィンに、俺は答えた。
なにせ相手のチームの名前も祭りの日も、きっちり覚えてる。これを知ってるだけでも相当違うはずだ。
「けどさ、これからどうすんの?」
「そだな、パターンどおりなら、ルーフェイアの迎えと合流して、別の手を考えるってとこか?」
「でも、その前に、イマド休んだほうが……」
横から口挟むルーフェイアのヤツに、大丈夫だと手を振る。
「合流してから休んだって、同じだろ」
どっちしても地理やら情勢やらに明るくない俺らじゃ、ヘタに動けねぇし。
「ルーフェイア、どうやったら迎えのヤツと連絡できる?」
「えっと……でも多分、駅で誰か待ってると思う」
ずっと誰か待ってるなんざ、さすがお嬢様だ。
「そか。そんなら考えなくて済むな」
俺がそう言う横で、ルーフェイアのヤツがため息をついた。シーモアたちを連れ帰れなかったことが、やっぱショックだったんだろう。
――これであいつらになんかあったら、マジでヤベぇな。
ともかくこいつは優しすぎる。
イザとなったら力ずくでも、抗争をどうにかするしかねぇだろう。ルーフェイアの望みってなら、シュマーの連中も動くはずだ。
そんなこと考えながら、少し歩いた時だった。
「君たち……」
「――はい?」
後ろから声をかけられる。
振り向くと、さっき追い返されてたジャーナリストの人がいた。