Episode:28
「で、今回の話はその中でも、どうやっても見過ごせない類なのさ」
「見過ごせない……?」
スラムの事情には疎いルーフェイアが、不思議そうな顔になった。この子にゃこんな場所で何が起こるかなんて、想像もつかないんだろう。
それはいいことかもしれない、そう思いながら説明する。
「チームのガキが殺られたんだよ。シマ争いの腹いせにね」
「そんな――!」
「事実さ」
もっともこういう話自体は、そう珍しいことじゃない。競合の少ないうちは滅多にナワバリ争いしないけど、数が多い盗み専門のチームなんかは、よく他とぶつかって血みどろの騒ぎをやらかしてる。
「で、仕返しってワケか」
なんの感情もない静かな声で、イマドのヤツが確認してきた。
「そうなるかな。まぁどっちにしたって、これを放っておくわけにはいかないしね」
「でも、何も……」
抗争までやらなくていい、ルーフェイアのヤツはそう言いたいんだろう。滅多やたらに強いくせに、この子は争いごとは大っ嫌いだ。
けどその言い分は、ここじゃ通らない。
「自分でオトシマエつけらんないようなヤツは、ここじゃ暮らしてけないんだよ」
どれだけきっちりカタをつけられるか。それがこのスラムでの価値だ。
ルーフェイアは黙ったままだった。多分どうしていいか、わかんなくなってるんだろう。
「さて、約束だよ。理由話したんだから帰ってもらう」
こういうとまたこの子、泣き出しそうになった。
「そんな顔しなさんなって。
全部片付いたら、ちゃんと帰るさ」
「そうそう。だいいちあたしたち、学院生なのよ?
ちょっとやそっとじゃケガもしないもん。だから安心して待っててね」
ナティのやつが上手く言葉を添える。
「シーモア、ナティエス……」
ルーフェイアの瞳から、また涙がこぼれた。
「――おい、とりあえず行くぞ」
泣いてるこの子を、意外にもイマドがうながす。
「でも……」
「しゃぁねぇだろ、約束なんだし」
ルーフェイアはイマドには逆らわないから、しぶしぶながらも従った。
ドアを開けて2人を送り出す。
「悪いねイマド、この子頼むよ。
それとウィン、この2人をちゃんと外まで送ってやんな」
「おっけー」
ドアのところで、ルーフェイアが立ち止まった。半泣きの顔で訴えてくる。
けど今度も、イマドがその背を押した。
「ほら、行くぞ。
じゃぁな、シーモア」
ウィンに続いて、あっさりと2人も出て行く。
――って、やけに素直じゃん。
見かけによらず食わせもののイマドが、すんなり帰ったのが気にはなったけど、その時はあたしはそれ以上考えなかった。