Episode:26
よく話を聞いてみると確かにここは廃ビルなもののまだしっかりしているため、勝手に「管理人」と称する人が住みついた挙句、格安で部屋を貸し出していると言う話だった。
「ここらじゃけっこういい方なんだぜ? 管理人に言えばさ、水道とかも直してもらえるし」
この過酷なはずのスラムで、でも住人は逞しく暮らしているようだ。
さすがに昇降台は動かなくて、階段を使って3階まで上がる。
奥のほうから何か、声が聞こえてきた。
「だからちょっとだけ、ほんとちょっとでいいんだ」
「るせぇ、てめぇみてぇなやつに、話すことなんてねぇよ!」
いちばん奥で男の人が2人、言い争っている。
「ウィン、あれは……?」
「あ、ほっといていいって。ここんとこいつもだからさ」
「いつも?」
なんでもこの男の人はジャーナリストで、このところ取材を依頼しに日参ているのだと言う。
「メーワクなんだよな。
――ケインにいちゃん、取りこみ中悪いんだけどさ、ちょいいい?」
「え? 今忙し――って、ウィンか? どうやって帰ってきたんだ?!」
ケインと呼ばれた、ジャーナリストを追い返そうとしていた男の人が驚く。
「このねぇちゃんたちが、連れてきてくれたんだ。すっげぇ強いんだぜ」
「だからって……。まぁいい、ともかく入れ。君たちもとりあえず、入るといい。
――っと、あんたはダメだ!」
一緒に入ろうとしたジャーナリストの人が、引きとめられる。
それを気にしながらも奥へ行くと、部屋の中に見慣れた姿があった。
「シーモア、ナティエス!」
「――ルーフェイア?」
思わず呼ぶと、不思議そうに2人が振り向く。
「あんた、なんだってここに……? そうか、ウィンのやつか」
彼女があたしたちを一瞥した。
鋭い瞳。
「シーモア?」
「あのね、ルーフェイア。ここへ来てもらっても困るの」
睨まれてすくんでいるあたしに、そうナティエスが説明する。
「でも、だって……」
言葉に詰まった。
このままじゃ大変なことになるのは分かっているのに、止められそうにない。
「あんたのことだ。話し聞いてすっとんで来たんだろうね。
ただね、これはあたしらでカタつける話さ。部外者の出る幕じゃないんだ。
悪いけど帰っとくれ」
にべもない返事。
「けど……」
けど放っておいたら、シーモアたちが死んでしまうかもしれない。
それなのに……。
「けど、もしも、もしも……シーモアたちが……」
もう誰にも死んでほしくなかった。
戦場で次々と死んでいった人たちの顔が浮かぶ。
さっきまで一緒に笑っていたのに、次に会った時はもう冷たくなっていて……。
それにあたしは、ムアカ先生と約束したのだ。
――必ず連れ帰ると。
何もできない自分が悔しくて、涙がこぼれる。
「――わかった。帰るわけにはいかないけど、そのワケ話すよ。
ともかくそれで勘弁してもらえないか?」
「理由……?」
真剣なシーモアの口調に、あたしは驚いて顔を上げた。