Episode:25
「ねぇ、ほんとにここがそうなの?」
降りたところで、あたしはウィンに尋ねた。
なにしろ予想と違って、そこはちょっとごみごみはしているけど、どうみてもふつうの繁華街だ。
「あ、ここは大通りに近いからさ、けっこう賑わってんだ。
オイラたちがいるのは、この奥ってやつ」
言ってこの子が歩き出した。あたしとイマドも後ろへ続く。
そしてそのまま裏通りに入り、細い道をいくつも曲がると、だんだん街並みが変わってきた。
これが……。
想像以上の場所だった。
お世辞にも綺麗とは言いがたい町並み。住めるのかと心配になるような建物。
先日行ったアヴァンの貴族社会とは全く正反対なことを、肌で思い知る。
周囲の視線も突き刺さるようで、万が一目が合っても、みんな視線を逸らしてしまう。
明らかにあたしたちは――よそ者なのだ。
ただ居心地の悪さは感じたものの、それ以上はなにもなかった。ウィンが一緒にいてくれたおかげだろう。
「ねぇ、どこまで行くの?」
「ごめん、ねぇちゃん。ちょっと歩くんだ」
なんでもシーモアたちが居着いている場所は、このスラムの中の方にある廃ビルなのだという。
ウィンは今までとうってかわって、元気そのものだった。やっぱりこの子には、ここが故郷なんだろう。
あたしが知らないその言葉に、少しだけ羨ましくなる。
――あたしに故郷はない。
各地にシュマー家が所有している「ファクトリー」と呼ばれる施設には、確かに自室もあるけれど、普段使うことはなかった。
それ以外に覚えているのは、殺戮の渦巻く戦場だけだ。
あるいはそれを、故郷と呼ぶべきなんだろうか……。
何も無い自分に悲しくなる。
「――気にすんなよ」
「え?」
「無なけりゃ作ればいいだろ」
そう言ってイマドが笑った。
「ありがと」
「いいって」
「――ねぇちゃんたち、何やってんのさ?」
見ればウィンが、きょとんとした顔をしている。
「なんかいきなり、意味不明の会話してさ〜」
「えっと……」
訊かれて説明に困る。
あたしは母さんや姉さんがそうだったから慣れてしまっているけれど、知らない人から見ればイマドの言動は、明らかに奇妙だろう。
「気が向いたら教えてやるよ」
それ以上は取り合わない、そんな雰囲気でイマドが話を打ち切った。
「……? んじゃさ、あとで教えてくれるって約束してくれる?」
「気が向いたらな」
「なんだよ、それ……。
あ、ねぇちゃんたち、あそこ!」
とつぜんこの子が駆け出した。あたしたちも慌てて追いかける。
ウィンが飛びこんだ廃ビルは、だけどよく手入れされていた。人が住んでいる気配がある。
――それもけっこう大勢。
「ねぇ、ここ確か廃ビルなのよね?」
「うん。でもさ、ちゃんと管理人がいて電気も通ってるぜ?」
「どういうこと?」