Episode:24
「スラムって言うからあたし、ついシティ外の方だと……」
ちなみにこのシティ外のスラムは町の西南、線路の両脇にずっと広がっている。ロデスティオ国内の困窮者や、征服された近隣諸国からの難民。そういった人が線路際に住みついて、出来たものだ。
「ごめんよ、ねぇちゃん。でもさ、そうほいほい言うのもヤバいかなって」
「あ、そうだね……」
確かにこの名前を聞いたら、大抵の人は眉をひそめるだろう。
「ったく、まさかそっちの出だとはな。どうりであいつらも肝が据わってるわけだぜ」
イマドの言う「あいつら」は、たぶんシーモアとナティエスのことだ。けど確かにあの2人、ちょっと考えられないほど非常時に落ちついている。たまたま戦場で育って慣れてしまったあたしはともかく、普通じゃあんな風にはなれないはずだ。
逆に言えばそれだけ……凄いところなんだろう。
「ほらねぇちゃん、急いで乗らないと」
「あ、ごめんね」
ウィンにうながされて、慌てて来たバスに乗った。
朝のラッシュはもう終わっているらしく、意外に空いている。
――それにしても。
大きな街だった。
学院のあるケンディクはもちろん、イグニールさえも遥かに上回るだろう。
大きな公園がいくつもあるし、きちんと街路樹も植えられて、この冬の最中に綺麗な緑色を保っていた。
歩道も全域で完備、しかもなめらかな石畳だ。とうぜん車道はどこも舗装されている。
そういえば以前来た時も、夜になっても街中が明るいままだった。
ただこの国ではなぜか、その街並みが住んでいる人の豊かさにつながっていない。
そうやってぼんやりと眺めているうちに、あたしは気付いた。
「ねぇ、ウィン。近いうちに何かあるの?」
新年が近いからというだけでなく、町全体がどこかお祭りムードだ。
「何って……あの大統領の記念日だよ」
「記念日……?」
必死に記憶を探る。
なにしろ小さい頃からあちこちの国を渡り歩いていたから、各国の記念日が頭の中でごちゃごちゃだ。
けど終戦記念はもっと後だし、建国記念はこの間のアヴァンだし……。
「んとさ、オイラもよく知らないけどさ、あの大統領が大統領になった日だって」
「――あ、就任記念日」
ようやく思い出す。
革命後、一気に軍事大国化したこの国は、それに少し遅れて軍部出身の今の大統領が就任した。
そしてそのあとは、専制政治を引いている。なにしろ「終身」大統領というのだから、完全に専制君主だ。
「就任記念なぁ?
けどよ、あの大統領が死んだ日の方がよっぽど――」
「イマドっ!」
思わず遮る。
「あ、悪りぃ」
このシティ内で、こんなことを口に出して憲兵にでも聞かれたら、生きて帰れる保証さえない。
ここはそういう国だ。
でも上手い具合に、誰も聞いてなかったようだった。
「あ、ねぇちゃんたち、次だかんね?」
「うん」
ウィンがそう言ったのを幸い、3人で急いでバスを降りる。