Episode:23
「――いないみたい」
「いないって……珍しい話があったもんだな」
彼が驚く。
でも確かに珍しい話だった。なにか途中で手違いがあったのだろうけれど、こういうことは初めてだ。
「どうしよう。待ってたほうがいいのかな……?」
「んな時間ねぇぜ?」
「そうだね……」
イマドの言うとおりだった。
最初からシーモアたちには、1日以上出遅れている。ここでまた時間を取られたら、もしかしたら間に合わないかもしれない。
「ねぇちゃんたち、なに困ってんだよ。オイラちゃんと案内できるぜ」
後ろで得意げにウィンがはしゃいだ。
「さすがにシティぜんぶはムリだけどさ、スラムだったら庭だもん」
「そりゃそうだろうな」
少年の言葉にイマドが笑った。
「よし、案内してくれ。ルーフェイア、行くぞ」
「あ、ちょっと待って」
あたしは急いで近くの端末に駆け寄って、表示されていた掲示板に伝言を書きこんだ。
もし迎えと入れ違いになったら、家が大騒ぎになる。最悪、捜索隊まで――母さんそういう人だ――出されかねない。
「――これでよし、と。ごめんね、もう行けるから」
ベルデナードのような大都市ともなると、駅の伝言板も端末内に設けられた掲示板になっている。
ここに書きこんでおけば万が一すれ違いになっても、すぐメッセージが伝わるはずだ。
「ねぇちゃんも大変だなぁ。どっか行くのにいちいち知らせんのか」
ウィンが妙なことで感心する。
「こいつんちはいろいろあるからな。で、とりあえずはバスでいいのか?」
「うん」
答えたウィンはそのまま階段を降り、下のロータリーに並ぶ幾つものバス停のうちの一つに並んだ。
表示を見ると「ショッピングモール行き」となっている。
「ショッピングモールって……いちばんの繁華街よね? そうするとウィンのいたスラムって、ファーストの方なの?」
「だよ」
どうやらあたし、勘違いをしてたらしい。
ベルデナードという町はほぼ円形を形作っている。
そしてその円を南北に中央通りが貫いて町を2つに分断し、西側は高級住宅地と役所などの機関、東側は巨大なショッピングモールとアパート群が立ち並ぶ構造になっていた。
ただこの巨大な繁華街は、20年程前に旧繁華街が移設されて出来たもので、町全体に比べると歴史は浅い。
そして再開発されるはずだった旧市街のほうは、その後大戦で計画が中止され、そのままスラムになってしまった。
これが俗に「ファースト」と呼ばれるシティ内のスラムで、治安が悪いことで有名だ。
ただ規模のほうでは、シティ外にあるもののほうがずっと大きく、ただ単にベルデナードのスラムというとこちらを差す。