Episode:22
◇Rufeir
まだ朝のうちに、列車は終点の駅――ベルデナードに到着した。
「やっと着いたな」
「うん」
ケンディクを出てから、もう6日目になる。
構内をぬけて自走階段を登っていくと、整然とした街並みが見えてきた。
ベルデナード――既知世界最大の都市。
ただ、都市自体の歴史はさほど長くはなかった。そもそもロデスティオという国自体が、出来てからせいぜい150年だ。
この大陸は古くから、神聖アヴァン帝国が巨大な版図を誇っていた。だが千年王国とまで称された帝国も、200年ほど前にはすっかり衰えて、地方の領主が次々と独立を宣言した。
ロデスティオも、その中のひとつだ。そして独立後、この地にあった小さな街へ遷都、ベルデナードと名前を変えて大規模な開発が行われて今の形になった。
その後は貿易と農業で、この国は生き延びてきた。
――大戦までは。
もともと王政だったロデスティオは、30年ほど前に軍を中心とした革命が起こり、軍制が敷かれた。
当初は激しい内戦になると予想されていたけれど、意外にも政府軍は巧妙で、またたく間に国内を制圧してしまった。
けど、問題はそのあとだ。
優秀な将軍を擁した政府軍は、そのまま肥沃な土地を擁する隣国マハイスへ侵攻。あっという間に併合したのだ。しかも勢いは止まらず、次々と隣国を支配下に収めてしまった。
当然だけどこれは他国の反感を買って、ロデスティオ打倒の機運が高まり、戦争が始まった。
でも戦局はいろいろあったのもの、総じて一進一退だったらしい。連合国側が内部で足を引っ張り合って、足並みが揃わなかったことも大きかった。
加えてロデスティオが、さらに西方の大国エバスと同盟を組んだため、文字通り大国を二分する大戦に発展。出口の見えない状態になってしまった。
けっきょくこれといった成果がないまま、財政的な面で行き詰まって、ロデスティオ-エバス同盟と連合軍は、停戦条約を結んだ。
そして今もこの国は、軍が実権を握ったままだ。
まっすぐ向こうに有名な、凱旋の塔が見える。
――征服の証し。
どれだけの血の上に、あれは建てられたんだろう?
そう思うと整然とした街並みが、ひどく空虚なものに見えた。
「おい、ルーフェイア」
「なに?」
イマドが声をかけてくる。
「いや、ケンディクで切符くれたあの人……迎えがどうとか言ってなかったか?」
「え? あっ!」
言われてやっと、ドワルディに言われたことを思い出した。そういえば彼、『スラムに詳しいものを待たせておく』と言っていたはずだ。
「けどよ、それらしいやつ見あたらねぇぜ?」
「えっと……」
ざっと周囲を見まわしてみたけれど、あたしたち以外立ち止まってる人は見あたらない。
だいいち家の者は全員、あたしの顔だけは知っている。万が一あたしの方がわからなくても、必ず声をかけてくれるはずだ。
なのに、誰も見当たらないということは……。