Episode:21
「シーモア、誰?」
「あ、ナティは知らないっけね。
パンテラって言うグループのミハーナ。ほら、目潰しのミハーナさ」
「ああ♪」
パンテラっていうのは、この街にたくさんある不良少女グループの中でも、最強チームの名前。で、シーモアったら今のグループに引き抜かれる前は、そこにいたって聞いたことあった。
その中でも目潰しのミハーナは、リーダーのティニと並んで、ここじゃ相当名が知られてる。
「ウワサじゃさ、大の男を5人もノしたっていうけど、あれホント?」
「あはは、ノしたってほどじゃないよ。あいつら分け前よこさない上にさ、ナイフなんか出しやがって。
ハラたったからティニと2人して片っ端から役立たずにして、ついでに目玉潰してやったんだ」
「ふぅん、ほんとだったんだ……」
シーモアから話は聞いてたけど、当人から聞くのって、やっぱり違うかも。
「それにしてもあんた、どこのモンさ。あんま見かけないね」
仕方ないって分かってるけど、こう言われちゃうと、ちょっと寂しいかも。あたし、ここの言葉ヘタだから、丸分かりだし。
「言うの遅れたね。
コイツはナティエスって、あたしのダチさ。ガルシィんとこで、前にいっしょに世話になってた」
「へぇ……そりゃ驚いた」
ミハーナが、ちょっと見下した顔になって。
「いつからガルシィんとこは、お嬢さんを飾るようになったんだい?」
ちなみにあたしたちのグループは、名なしなの。というか、もう「ガルシィのとこ」って言えば通じちゃうほど有名。
もひとつ言うとあたしたちのとこは、普通?の不良とは一味違って、強盗なんて絶対やらない。
普段はたいてい誰かの依頼――店主どうしの嫌がらせ試合みたいなのもあるけど――で、ボディーガードまがいをしてるの。後はあたしたちより上になる大人のグループに頼まれて、兵隊やったり。
手っ取り早く言えば、お金で力を売るってとこなのかな? どっちにしてもこの辺は、学院の傭兵隊と大差はないのかも。
――レベルはかなり違うけど。
あたしとシーモアが学院にいる理由も、その辺にあったりするし。
シーモアが続ける。
「まぁ、そう思うのは分かるけどね。
けどナティ、腕はいいよ。確かに引っ張り込んだのはあたしだけど、ガルシィんとこはそんだけじゃ、居られないの知ってるだろ」
「そりゃそうだけど……あっ!」
あたしが手にしてる財布見て、ミハーナ、さすがに声あげたの。
「あたいの財布、いつのまに!」
「んーと、今話してる間?」
隙だらけだったし。
でも彼女は、そういうつもりじゃなかったみたい。
「こんなみごとに掏られたのは、初めてだよ。
アンタただのお嬢さんかと思ったら、見かけによらないじゃん」
「えへへ♪」
ちょっと嬉しかったり。
「それにしてもシーモア、アンタが学院入学したってホントなのかい?
確かにしばらく姿、見なかったけどさ」
「ああ、ホントさ」
ミハーナの言葉にあっさりシーモアが答えて。
「いいね〜、なんだかあっちじゃ、きっちりメシまで面倒見てくれるって?」
「うーん、いいっていうのかなぁ?」
訊かれてちょっと、答えに困っちゃった。
確かに学院ってご飯も服もお小遣いもくれるけど、スラムにいたときみたいな『わくわく』はないんだもん。
「あれ、そんなもんかい?
ま、どっちでもいいや。あとでヒマ見て、うちのリーダーにも挨拶してきなよ」
「ああ、そうするよ」
「あ、その時あたしも行っていい?」
シーモアが昔いたってグループ、興味あるもん。
「そしたらあたいから、ティニにそう言っとくよ。んじゃね♪」
言いざまミハーナったら駆け出して。きっとあれ、その辺の繁華街で誰かカモるんだろうな。
「やれやれ、いつもながら忙しいやつだよ。さて、さっさと行こうか?」
「そだね」
まだ確かに朝だけど、アジトつくまでにお昼になったら笑い物。
だからあたしたち、急ぎ足で歩き出したの。