Episode:19
「いやその、なんとなくそう思っただけでよ……」
「――うそ」
珍しく、こいつが間髪入れず言い切る。
「読んだ……よね?」
ごまかそうかと思ったけど、こいつの瞳を見てムリだと悟った。何が起こったかコイツ、ちゃんと分かってる。
なんか言おうと思ったけど、言葉が出て来なかった。
と、ルーフェイアのヤツと瞳が合う。
どっか怯えた、泣き出しそうな表情。
――そりゃそうだよな。
こんな薄気味悪りぃこと、受け入れられるほうがおかしい。
「その、イマド、ごめん……」
「ってだからなんでそこで、お前が謝って泣くんだよ」
いつもの事とはいえ、こういう状況でってのは予想外だ。
「ごめんなさい……」
聞こえてねぇし。
「いやだから、別にお前悪くねぇだろ」
「だって、あたし……イマドが、言われたくないこと……」
「はい?」
意味不明にもホドがある。
けど、表情見て気づいた。怯えてる理由は俺に読まれたことじゃなくて、「嫌われたかもしれない」ってほうだ。
なんでそうなるかかなり謎だけど、俺が黙った事を、自分が悪かったと思い込んだらしい。
「言われたくねぇってか、要するに俺の不注意だし。
てかおまえ、なんですぐ分かった? 普通じゃこれ、ヘンだとは思っても、何が起こったかはわかんねぇぞ」
これも不思議だった。
じつ言えば、今みたいなうっかりは、何度かやったことある。ただ考えを読まれてるとか、たいていは考えつかねぇから、テキトーな言い訳で話はいつも終わってた。
「まさかおまえ、出来るとか言わねぇよな?」
さすがにないだろうと思いつつ、言うだけ言ってみる。
ただルーフェイアのヤツ、すぐ気がついただけあって、答えがもっと度外れてた。
「ううん、あたしは出来ないけど、母さんも姉さんもそうだから……」
「――はい?」
さすがに聞き返すと、ルーフェイアのヤツがたどたどしく、説明始める。
「えっと、だからその、うちって……アレでしょ。そのせいか、一族のかなりが、そういう人で……」
「……お前の家が並みじゃねぇの、忘れてたぜ」
考えてみりゃ、あのシュマーだ。そんなもんが人並みなほうがおかしい。俺のお袋の家系以上に、変わった連中が居てもいいくらいだ。
「要するにお前にしてみりゃ、当たり前ってことか」
「うん」
なんか力が抜けた。
気ぃ遣ってた自分が、妙に情けなくなる。
「ねぇ……やっぱりイマドも、母さんみたいに分かるの?」
「お前のお袋よく知らねぇから、なんとも言えねぇけど。
――けどなぁ」
なんとなく頭を掻きながら、続ける。
「最初からそうと分かってりゃ、こんなに気なんか使わなかったぜ」
「ご、ごめん……」
「そこで泣くなって」
また泣き出したコイツに苦笑する。ホントに甘ったれで泣き虫だ。
「ま、俺の場合そゆこと。
なるたけ使わないようには気をつけてんだけどよ、隣の席の話が聞こえるのと一緒で……けっこう聞こえちまう時あってさ。
悪りぃな。もしヤな時は、はっきり言ってくれていいぜ」
肩の荷が下りた気分で言う。やっぱ隠さないで済むってのは、楽だ。
ただ、返ってきた答えは予想外だった。
「あのね、いいよ。平気」
「何がだ?」
一瞬だけ戸惑ったけど、すぐ理解する。
こいつは最初から、考えてる事を隠す気なんて、なかったんだろう。
「サンキュな」
「ううん。
だって知られて困ること――ないもの」
何の気負いもなく微笑むこいつの頭を、俺はつい撫でた。