Episode:131
「いや、俺このまま、伯父さんちいくからさ」
「あ……」
一瞬呆然としたあと、こいつが華やかな笑顔になった。
俺とルーフェイアが初めて会ったのは、あの街だ。
それに実のところ、孫娘の命の恩人になるこいつを連れて来るように、伯父さんから何度も俺は言われてる。
「あんときゃ時間ないわみょーな騒ぎになるわで、たいして見てかなかったろ?
来るなら、ちゃんと案内するぜ」
「あら、それいいわね♪」
けどいちばん喜んだのは、こいつのお袋だった。
「あの時はあたし、ぜんぜん見るヒマなかったのよね〜。一度ゆっくり見たかったのに」
確かにこの人、戦闘に参加したあとちょこっと来ただけで、多分どこも見てねぇだろうけど。
「か、母さんも来るの?」
「あら、何か悪いの?」
「だって……」
強引なお袋さんと妙な勘違いしてるルーフェイアとが、かなり笑えた。
「まさかあなた、あたしたちがこのボウヤのとこへ、上がりこむと思ってない?」
「え、違うの?」
もっともこの人が相手じゃ、勘違いするのも当然って気がする。
しかも親父さんときたら止めるどころか、面白がって見てるんだから始末に追えない。
「いくら小さい街だって、ホテルくらいあるでしょ。とりあえずそこへ泊まって、彼に案内だけしてもらえばいいじゃない」
「――俺にケンカ売ってます?」
歯に衣着せないってのも、考えモンだ。
「あら、ごめんなさいね。
でもこれで行き先決まったわね〜♪」
言うが早いがこいつのお袋、さっさと切符を買いに窓口のほうへ向かった。
「母さん、どこの駅で降りるか知ってるの?!」
「アヴァン駅でしょ♪」
「――ぜんぜん違いますって」
答えを聞いて、俺も心配になる。いくらアヴァン領内だからって、首都まで行っちまうとかあり得ない。
けど俺らの突っ込みなんざこのおばさん、そよ風のごとしだ。
「あらそうだった?
まぁいいわ、駅員にでも訊くから」
「………」
これにはさすがに心配になったらしくて、無言で親父さんが後を追いかける。
「ホント、すげぇ両親だよな」
「だからお願い、それ言わないで……」
「悪りぃ悪りぃ。
それよりよ、俺らも行こうぜ。お前の両親に任しとくと、なんか心配だしな」
「……うん」
小さくこいつがうなずいた。どうも親2人に振り回されて、気落ちしてるらしい。
「――ルーフェイア」
「なに……?」
華奢なこいつが顔を上げた。
笑顔がないとその表情はどこか儚くて、消えちまいそうだ。
だから……。
「上手くいって、良かったよな」
「――うん!」
極上の微笑みが、ルーフェイアの顔にのぼった。
Fin
◇あとがき◇
長い長い話を最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。この話、じつは厚めの文庫本1冊分、あったりします(汗)
第9作はこれで完結となり、明日から第10作目の連載に入ります。今までと同じく、“夜8時過ぎ”の更新です
感想・評価大歓迎です。一言でもお気軽にどうぞ