Episode:129
「でもウィンが失敗するなんて、よっぽどよね?」
「オイラもびっくりしちまったよ。カップルで歩いててさ、きっと懐なんかお留守だと思ったのに、いきなり腕掴まれちまって」
「そりゃ、かなりのモンだね」
聞いた話じゃこのガキんちょ、チームじゃナティに次いで掏りの腕はいいらしい。
なのにそれを察して腕を掴んだってことは、その相手ってのは相当だ。
「ヤローのほう狙うんじゃなかった。大失敗だよ」
「ま、これ教訓にして、今度から気をつけるのね。でも、よくそれで逃げられたね?」
掏りとしちゃ一級品のナティエスが、不思議そうに尋ねる。
「いや、それがさ、黙って手放して見逃してくれたんだ」
「ンな奇特なヤツが、今時いるのか……」
未遂だったせいもあるんだろうけど、かなり珍しい話だ。
「でもホントそのヤロー、見かけと中身がぜんぜん違うんだ。
髪なんか銀色で前髪だけちょこっと紅くしちゃってさ、挙句に女みたいに伸ばして三つ編みしてんだぜ?
絶対、やれると思ったんだけどな〜」
「そ、それ、もしかして……」
ウィンの説明に、俺も含めて絶句する。
「あ、あのね……その銀髪の人、眼鏡かけてなかった?
それとカップルって……連れの女の人、黒い髪に紫の瞳で長身じゃ……」
「あれっ、姉ちゃんなんで知ってんのさ?」
ルーフェイアの説明聞いて、目を丸くしたウィンの頭を、シーモアがはたいた。
「あんた、その人狙ってそれで済んだんなら、はっきり言ってメチャメチャ幸運ってやつだよ」
「ほんとほんと、絶対成功しない相手よ、それ」
ナティエスのやつも一緒になって、このガキに向かって突っ込む。
タシュア先輩とシルファ先輩がどっかへ行ってるってのは、ルーフェイアから訊いてたけど、どうやら行き先はここだったらしい。
世の中広いようで狭いっつーか……。
「にしてもよ、よく五体満足で見逃してもらったよな」
「タシュア先輩、そんなことしないわ」
俺のつぶやきに、ルーフェイアのヤツが抗議する。
「先輩、優しいもの」
「――はいはい、分かってるって」
毎度泣かされてるクセに必ずこう言うんだから、マジでたいしたもんだ。