Episode:126 結末
◇Imad
「それにしても、お前がクモ嫌いだとはな〜」
こいつ、何見たって平気な顔してっから、まさかこんなモンが苦手だとは思いもしなかった。
「もう、お願いだから言わないで……」
「あ、悪りぃ悪りぃ」
よっぽどヤなんだろう、単語すら聞くのを嫌がる。
「けど、なんでンなに嫌いになったんだ?」
俺の知るかぎりじゃ、女子ってのはたいてい、ゴキブリの方が嫌いだ。
「この子ね、むかし熱帯地の戦線に出た時に、毒蜘蛛にやられてヒドイ目に遭ったのよ」
「あ、それで……」
こいつのお袋さんの言葉で納得した。ようするにトラウマってやつだろう。
あの騒動からもう6日、俺らはベルデナードの、駅前広場とやらにいた。
別にさっさと帰っちまってもよかったんだけど、「祭りでも見てけ」っつーシーモアたちの言葉に、ルーフェイアのお袋がみごとに便乗。結局この街に、俺らもいっしょに居座っちまった。
もちろん祭りってのは抗争じゃない。どういうわけか国をあげて行われる、大統領の就任記念日祝いだ。
でも「見てけ」ってだけあって、街中露店が出てたり大道芸やってたり模擬試合があったり、けっこう飽きなかった。
――メインの大統領演説は、めちゃくちゃつまんなかったけど。
ついでに言うと今、ロデスティオの政界と軍部は大騒動ってやつだ。
こないだのスラム侵攻で墓穴掘っちまったマルダーグ大佐とやらは、結局憲兵に自宅で麻薬組織のボスと一緒にいるとこを、とっ捕まっちまった。
バカなことにスラムに軍出して安心しちまって、隠れんのも忘れて、高みの見物決めこんでたらしい。
そのうえそっから芋づる式に、政界やら軍部やらの麻薬スキャンダルがバレて、もうどっち向いてもガタガタ。大統領演説の内容の大半が、こっち関係の話に切換えられたほどだ。
ちなみにこの辺をバラしたのはゼロールさんで、今まで地道にウラ取ってた情報をここぞと流したんだとか。
それ以外にもこの人は、あのバカ取材人がいた放送局のカメラマンと一緒に、今回のスラム侵攻の一部始終を動影に収めてる。
どっか頼りなさそうだったけど、ジャーナリストとしてはけっこう一流だったってことだろう。
「けどお前ら、マジで帰んねぇのか?」
シーモアたちに尋ねる。
昨日でおおむね祭りも終わって、俺とルーフェイアたちは町をあとにするところだった。
今ここにいるメンツは俺にルーフェイア、こいつの両親、あとナティエスにシーモアだ。
「もうここまで来たら一緒だからね。久々にみんなと新年の騒ぎやってから、学院帰るさ」
「あ、なるほどな」
確かにこいつら3年くらい帰ってなかったらしいから、そゆ気にもなるだろう。
だいいち年が明けるまで、もういくらもない。
「授業始まるまでに、帰って……くるよね?」
心配そうにルーフェイアが訊いた。一緒に帰るつもりでここまで追いかけたワケだから、気が気じゃねぇんだろう。
「もう、ルーフェイアったら心配性なんだから。
大丈夫、ちゃんと帰るってば」
ナティエスのやつに請け合ってもらって、やっとこいつが安心した顔になった。