Episode:125
「お嬢ちゃんたち大丈夫か?」
さすがに一息ついているところへ、クリアゾンの人たちが乗り込んできた。
「街の連中から、なんかとんでもないことになってるって聞いて、なるべく急いで来たんだが」
「あ、はい、どうにか倒しましたから……」
「倒したぁ?」
イマドが黙って、人形を指差す。
動かなくなっている鋼鉄のカニに、ボスを始めみんなが困惑した顔になった。
「こんなもの、普通は子供2人で倒したりしないぞ……」
「そうなんですか?」
確かにこれほど大型のものは初めてだけど、普通の人形ならあたしは学院へ来る前から、一人で片づけていた。
「だから言ったでしょ、この子達は並みじゃないって」
声と共に母さんが姿を見せた。どうやら向こうの戦闘も終了したらしい。
母さんの後ろには父さんやシーモア、ナティエスたちがいた。
「みんな、大丈夫?」
「ああ、まるっきりなんでもないよ」
さすがというべきか、シーモアもナティエスも平然とした顔だ。
「これじゃ祭りの方が、たぶんハードだったろうね」
「ウソウソ、あの大佐が来て戦闘停止させてくんなきゃ、けっこうヤバかったんじゃない?」
「ナティ、あんたどうしてそこでそう言うんだい」
シーモアが憮然としたけれど、あたしはナティエスが言った言葉の方が気にかかった。
「大佐って?」
「んと、あのほら、話の出てたコーニッシュ大佐」
「え? じゃぁ大佐が直に来て……戦闘を終了、させたの?」
「うん」
信じられない話だ。
「あたしが連絡しといたから、裏取ってすぐに動いてくれたみたいね、リオネルは」
母さんが自慢げに胸を逸らす。
「どぉ、見なおしたでしょ♪」
「母さん、娘に威張ってどうするの……」
このやりとりに周囲から笑い声が起こって、恥ずかしくてしょうがない。
「事実だからいいの。
であと情報じゃ、リオネルが憲兵をマルダーグ大佐のお宅に向かわせてるらしいわ。だからじき、一連の騒ぎも収まるでしょ」
「そっか……」
でもなんだかあたしは、寂しい風が吹き抜ける気分だった。
確かにこれで「ファミリー」を名乗る犯罪組織が捕まって、騒ぎは収まるだろう。
だけど殺された子供たちは帰ってこないし、この戦闘で出たはずの死者も生き返るわけじゃない。
それに何より、このスラムの人たちの生活が変わるわけじゃないから……。
「――あんた、いい子よね」
うつむくあたしの頭を、母さんが撫でた。
「ホントどこでどう間違えたんだか、うちの人間にしちゃ優しすぎだわ。
けどそれにしても、どうやってこの蜘蛛倒したのよ?」
「く、蜘蛛……!!」
母さんの言葉に、壊れた人形を振り返る。
4本の足に2本のツメ。
言われてみれば確かに、蜘蛛にも見えた。
――戦ってる時は、カニに見えたんだけど。
鳥肌がたってくる。
「おい、ルーフェイア、お前顔色悪りぃぞ? どうかしたのか?」
「あたし、あたし、蜘蛛……」
これだけは大っ嫌いだ。ゴキブリの方が何十倍かいい。
「いやぁっ! 誰か片付けてぇっっ!!」
周囲が呆れかえる中、あたしはそのままそこへ座り込んでしまった。