Episode:124
「魔法防御、働かせられる? 母さんの精霊なら、それできたと思う」
「ああ」
答えを聞いて安心する。これなら万が一にも、イマドがダメージを受けることはない。
内に宿る力を解放しようと、呪を唱えはじめる。
「鳴り響く時の内に棲む者よ、その稲妻持ちて我が敵を打ち砕け――」
その間にイマドが低位魔法を放って、人形の足を止めてくれた。
「来いっ、アエグルンっ!!」
靄のようなものがわだかまって、異形としか言いようのないものが、実体化した。
角から、翼から、身体から、鮮やかな電撃がほとばしり、それが呼び水となって天空からもいかずちが降り注ぐ。
閃光。
轟音。
そして空気の焦げる匂い。
手応えはあった。
これで倒れてくれれば……。
でもその思いも虚しく、人形が再び自己修復を始める。
「精霊はもう、ダメだよな?」
「――うん」
こんな町中で何度も精霊を召喚したら、それこそ周囲の都市機能に影響を与えてしまう。
「ねぇイマド、さっきの魔力の暴走って、させられないの?」
「できねぇ」
望みを託した言葉を、イマドはあっさりと否定した。
「なんか知らねぇけど、魔力干渉防ぐ構造になってるみたいでさ。
――ってぇか、できりゃやってるって」
「あ、そうか……」
けどこれ以上のダメージを与えるとなると、もう母さんでも呼んで同時攻撃するしかない。
その時、ちょっと考えるようにしていたイマドが突然言った。
「おい、俺に防御魔法かけろ」
「えっ?」
「いいから!」
戸惑いながらも呪文を唱える。
あるいはイマド、何かいい方法を思いついたんだろうか?
「――エターナル・ブレス!」
そうしてる間に、また鋼鉄のカニが立ち上がる。
「たかが鉄クズのくせに、てめぇ生意気なんだよっ!」
ロングソードを手にイマドが突っ込んだ。
巧みに爪をかいくぐり、あっというまに肉薄する。
「黙って壊れてろってんだ!」
彼が人形のいちばん弱いところ、目に剣をつきたてた。
剣が奥深くまでもぐりこみ、もういちどカニ動きが止まる。
「ルーフェイア、狙えっ!」
瞬間イマドの考えてる事をあたしは悟った。
迷わず呪文を唱える。
「遥かなる天より裁きの光、我が手に集いていかずちとなれ――」
上級呪文を、全力でもう一度。狙いはイマドの剣。
「ケラウノス・レイジっ!!」
刃を伝って、電撃が内部へと流れこむ。
同時にイマドが、あたしの魔法と人形の魔力とを暴走させた。
「砕けろっっ!!」
もとからの上級魔法の威力に、人形が持っていた魔力が加わる格好になって、通常を遥かに上回る雷撃が生み出される。
太陽が落ちたみたいに、一瞬あたりが真っ白になって……。
ばちばちという音を立てながら、この殺人兵器が爪を振り上げかけて――不意に止まった。
周囲が静まり返る。
駅から聞こえてくるアナウンスが、奇妙なくらい広場に響いた。
「今度こそやったか……?」
彼がそう言い終えないうちに、振り上げられていた爪が根元から外れて落ちる。
「今度は大丈夫みたい」
あたしもようやく緊張を解いた。人形1機にこんなにてこずったのは、生まれて初めてだ。
こんなのが実践配備されたら……。
ただとりあえず、今はもう心配ないだろう。




