Episode:123
「けどまぁ、近くてよかったな」
「うん」
イマドの言うとおり、あたしたちがいた場所から駅前の広場までは、ほんのちょっとの距離だった。
ただ歩道を駆け抜けているあたしたちはいいけれど、カニは車道を強引に走って?いるから、完全に交通妨害を起こしている。
「にしても、ロデスティオ軍ってのは何考えてんだろな?」
「あたしに訊かれても……」
もしかすると、何も考えていないのかもしれないし。
ともかく駅前の広場にたどりついて、あたしたちは足を止めた。
人形が追いついてくる。
「上級魔法、行くから」
「わかった」
なにしろあの大きさだ。ちょっとやそっとの魔法じゃ、びくともしないだろう。
急いで呪文の詠唱――さすがに上級魔法となると、ちゃんと詠唱しないと発動させられない――を始める。
「遥かなる天より裁きの光、我が手に集いていかずちとなれ――ケラウノス・レイジっ!」
上級雷系呪文が発動する。
雷撃が天から駆け下って地を貫き、金属のこすれる音をたてながら鋼鉄のカニがくずおれた。
「やった……か?」
「わかんない……」
普通だったら絶対にスクラップになっているはずだけれど、なぜか自信がなかった。
あの赤い目が、まだこっちを見ている気がする。
「でもよ、これでおしゃかにならなかったら――げ、マジ?」
近づこうとしていたイマドが、うわずった声を出す。
「そんな……!」
あたしも信じられなかった。
なにしろこの人形はあれほどのダメージを受けたのに、何事もなかったかのように立ち上がったのだ。
「どうなってんだよ!」
「そんなこと言われても……あ、もしかして……自己修復機能……?」
ロデスティオ軍はそういうものを人形に搭載させようとしてると、以前聞いたことがある。
「自己修復機能だぁ?
んじゃどうやって倒せってんだよ?」
「機能以上の負荷与えれば、たぶん……」
ただこれだけの機能をもっているとなると、内部の肝心な場所が魔力や電撃に対して、絶縁構造になっているかもしれない。
もしそうならお手上げだ。
「機能以上っておい、上級魔法以上のダメージ与えろってか? 冗談キツいな――っと」
イマドがぼやきながら、カニの爪を飛び退って躱した。
標的をしとめ損ねた目が、周囲を探る。
瞬間、嫌なものを感じた。
「イマド、伏せてっ!」
警告しながらあたしは呪文を唱えた。
鋼鉄のカニに装備されている、砲門に光がともる。
「――ルス・バレーっ!」
ぎりぎりのところで呪文が間に合って、あたしとイマドは光の矢に薙ぎ払われずに済んだ。
焼け付くような熱さは感じたけど、それ以上はない。
「あんなもんまで装備してやがんのか。これじゃうかつに近寄れねぇな」
イマドの言葉にあたしも考え込んだ。
あれだけの雷撃を受けてまだ平気となると、もう手段が限られてくる。
「精霊――使うわ」
「まぁ、しょうがねぇな」
精霊は町中では使わないのが基本だ。
なにしろ効果範囲が大きすぎるし、それ以上に使った地点のエネルギー傾斜を、一時的とはいえ狂わせてしまう。
でもこの状況じゃそんなことは言ってられなかった。
それに幸いここは広いから、周囲もさほど巻き込まないで済むはずだ。